Q大手ビールメーカーC社の経営企画室長、坂崎一郎は憂鬱だった。いささか短気で根性論が大好きな社長の神保剛三が、経営企画会議の席上こう叫んだのだ。

 「なんで、出すもの出すものみんなD社の後追いになるんだ。このままじゃ、業界3位の地位をD社に明け渡すことになるぞ。どうすればD社に先制できるか、次回までにレポートをまとめてくれたまえ」

 技術力を売りにしてきたC社は、技術陣が満足しない限り新商品を出さない。歴代の社長は技術畑出身だったから、これまで「後追い」が問題視されたことはなかった。後から出しても中身で勝てば許されたのだ。しかし、営業畑出身の神保は、D社の追い上げに強烈な危機感を持っていた。

 「要するに課題は、『いつも競合他社に出し抜かれてしまうが、どうすればライバル社に先制できるのか』ということだよな。でも、いつも出し抜かれるのは社風としか言いようがないじゃないか……」

坂崎室長には申し訳ないが、このままではいくら考えても答えは出せない。私はよく「問題解決の方法」というテーマでトレーニングを行うことがあるが、必ず強調することがある。それは、「問題を解決するためには、『本当は何が問題なのか』を見極めることが最も重要である。この見極めさえできていれば、問題の90%は解決したようなものだ」ということ。

「問題の見極め」で誤ると、いくら時間をかけても意味のある答えは出てこない。ラフな言い方をすれば、「何に答えを出せばこいつにけりがつくのかを、走り出す前に考え抜け」ということなのである。

「今のこの局面でけりをつけるべき課題」を、英語でイシュー(issue)という。イシューは論点、争点とも訳されるが、十分にイシュー度の高い課題に質の高い解を与えることができれば、その解は大きなインパクトを持つことになる。たとえばそれが企業活動にまつわるイシューであれば、事業の方向性を大きく変えてしまったり、時には新たな市場を生み出すほどのインパクトを持つ場合もある。