景気が落ちても利益率51%が崩れない凄さ
さらに重要なのは、ロボット本体に搭載されるセンサーだけではないという点だ。書籍が指摘した通り、現場側に置かれるセンサー――工場全体の状態を測るキーエンス製品群――もまた、フィジカルAIの時代に役割を増す。ヒューマノイドが工場で稼働するためには、ヒューマノイド本体だけでなく、工場全体を高解像度で測る仕組みが必要だからである。
つまりキーエンスは、二正面のセンサー需要――「ロボット側」と「現場側」――の両方で、フィジカルAI時代の決定的な供給者になる構造を持っている。
書籍で私が指摘した観測すべきポイント――「短期の景気循環で売上が上下しても、中長期で『現場が学習する前提』が立つほど、同社の役割はむしろ強くなる構造」――は、まさにこの構造を指している。
書籍で私が指摘した観測ポイントを、最新の業績データで補強したい。2026年3月期決算は、世界経済の不透明感の中でも、営業利益率51.0%(前期51.9%)を維持した。第34半期累計では売上営業利益率が前年同期51.3%から49.8%にやや低下した時期もあったが、第44半期は53.6%まで回復している。これは、設備投資の循環的な減速局面でも、同社の収益構造が極めて堅牢であることを示している。
市場はまだキーエンスの「本当の価値」を織り込んでいない
書籍時点でのバリュエーションは、予想PER(株価収益率、株価が一株当たり利益の何倍かを示す指標)32.1倍、PBR(株価純資産倍率)4.09倍。PBRが過度に高騰していない一方で、PERは相応に高い水準にあった。市場は同社を「高収益・高品質な現場インフラ」として評価しているが、ここで本稿が指摘したいのは――市場はまだ、キーエンスを「フィジカルAI時代の学習ループの入口企業」として完全には織り込んでいない可能性がある、ということだ。
設備投資のサイクル企業として見るか、フィジカルAI時代の構造的勝者として見るか――この見方の差が、今後の評価ギャップを生む可能性がある。
そして書籍が示した本質的な観測ポイントは、こうだ。フィジカルAIの実装が進むほど、測定対象が「検査」から「学習の燃料」へ移り、同社の製品が現場の学習ループに組み込まれていくかどうか。この移行が本格的に始まれば、キーエンスの製品需要は景気循環を超えた構造的拡大局面に入る。
2026年は、その入口にあたる年だ。本連載第2回で論じた通り、中国ではAgiBotが累計1万台を達成し、Unitreeが上海でIPO申請を受理された。本連載第3回で論じた通り、テスラ・Unitree・AgiBotの3人の経営者は、それぞれの形で量産ヒューマノイドへの本格投資を進めている。これらのヒューマノイドが現場で稼働を始めれば、必ず「測る側」の需要が膨張する。
その膨張の最前線に、キーエンスが立っている。

