売る前に聞き出す「4つの仕組み」

キーエンスの本質を、構造的に解明したい。

同社の製品は、センサー、画像処理システム、計測機器、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ、工場機械を制御する産業用コンピューター)、3Dプリンタなど多岐にわたる。これらは技術的に優れているが、競合他社にも類似製品は存在する。製品技術の優位性「だけ」では、営業利益率51%は説明できない。

では、本質は何か。それは――現場に入り込む「仕組み」そのものである。具体的に分解してみよう。

第1の仕組みは、コンサルティング営業(同社で言う「提案営業」)である。キーエンスの営業は、製品を売る前に、顧客の課題を深くヒアリングする。工場のどの工程でどんな不具合が起きているか。検査でどんな見落としがあるか。歩留まりはなぜ落ちているか。これらを徹底的に聞き出し、課題の根本を見つけ出す。

第2の仕組みは、横展開のデータベースである。聞き出した課題は、社内のデータベースに保存される。「この業界のこの工程で、こういう課題があった。それをこういうセンサーで解決した。コスト削減効果は年間いくらだった」――このナレッジが、別の顧客の似た課題に横展開される。1社で解決された課題が、数百社、数千社に同じソリューションとして提供されていく構造である。

ポータブル3Dスキャナー
写真=iStock.com/MJ_Prototype
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3万円の競合品に50万円で勝てる理由

第3の仕組みは、「課題への要求度」の見える化である。各課題について、「この課題を解決するために顧客がどれだけお金を払う意思があるか」が、データベースで見える。だからキーエンスは、競合の3万円のセンサーに対して、10倍以上の50万円のセンサーを提案できる。なぜ買ってもらえるのか。それは年間数百万、数千万のコスト削減や歩留まり改善が見込めるからだ。経済合理性そのもので勝負している。

第4の仕組みは、真の顧客ニーズが製品化に直結する循環である。営業が現場で発見した「まだ解決されていない課題」は、開発部門にフィードバックされ、新製品として商品化される。だからキーエンスの製品ラインナップは、常に「現場が本当に必要としているもの」に最適化されていく。

つまりキーエンスは、単に「現場の1次データを生み出す側」にいるのではない。「現場の1次データを生み出させる仕組みそのものを持っている会社」なのである。製品は、その仕組みの結果として高く売れている。

ここに、年収2039万円の本当の理由がある。営業利益率51%の本当の理由がある。そして、世界46カ国250拠点で30万社のものづくりを支援する「現場アクセス」の規模こそが、競合他社が真似できない参入障壁である。

ライバル企業がキーエンスを追いかけようとしても、追いつけない。なぜなら、同じセンサー製品を作ることはできても、半世紀かけて構築された「現場へのアクセス網」と「課題データベース」と「営業のコンサルティング能力」を、短期間に再現することはできないからだ。これは、本連載第1回で論じた「時間が複利で効く構造」そのものである。