できる、できないとかではなく、やり抜く

「『考えるより動け。できる、できないとかではなく、やり抜くんだ』という教えです」

TDSリチウムイオンバッテリーグジャラート社(TDSG)の高柴久則社長は、鈴木修から学んだこととして、こう答えた。

同社は車載用リチウムイオン電池(LIB)を製造する合弁会社。出資比率は東芝40%、デンソー10%、スズキ50%。高柴はスズキ常務役員を兼ねている。

会社設立は2018年だったが、それ以前に合弁成立のため水面下で調整作業を行ったのは高柴だった。TDSGの従業員は905人いて、うち874人がインド人、残りが日本人。

「インドに駐在する私たちは、修さんの教えを現場で働くインド人に落とし込む、いわば伝道師」

マルチ・スズキのハンサンプール工場の敷地内にTDSGはあって21年3月から生産を開始。昨年7月に累計生産は1000万セル(100万パック)を超えたが、全量をマルチ・スズキのHV(マイルドHV、ストロングHV)向けに出荷している。EV向けは生産していない。

EVにおける機械屋と科学屋のカベも超え

自動車組立のグジャラート工場の従業員は、その85%は非正規の期間工。2S(整理、整頓)やゴミゼロ、スズキの生産方式といった基本を3週間から1カ月にわたり教育し工場現場で働く。全国から集まり寮に住み、おおむね1年で期間工の契約は解除されていく。

永井隆『軽自動車を作った男 知られざる評伝 鈴木修』(プレジデント社)
永井隆『軽自動車を作った男 知られざる評伝 鈴木修』(プレジデント社)

これに対しTDSGのインド人従業員は「日本で言う高専(工業高専)卒か大卒」と高柴。いわゆるワーカーとは一線を画す。水分を徹底して排除したドライルームをはじめ、高精度な生産設備と向き合い、機械設備を監視して制御、管理できる高い専門性は求められる職域で働く。

ちなみに、LIB工場はドライルームの敷設が、設備投資のかなりの部分を占めるのは特徴だ。

一般に、自動車メーカーは機械工学出身の“機械屋”が多くを占める。これに対し、電池は化学工学出身の“化学屋”が占める。専門の違いから壁ができ、軋轢が発生しやすいが、「修さんは『とにかくやれ』なので、壁や軋轢などを許さなかった」と高柴は話す。

TDSGはインド唯一の車載用LIB工場。しかし、3年から5年で従業員はスカウティングなどで別業種のメーカーへ転職していく。

高柴は「インドの若者たちの向上心は凄まじい。現状に安住せずに、自分や家族のため、高いポジションと高い報酬を目指している。電池の専門家としてではなく、スズキの企業文化で働いていた点が評価され転職につながります」と指摘するが、こうしたジョブホッピングをするビジネスマンを通して、インド産業界に鈴木修の教えが広く浸透していくのだろう。

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