見落としていた「3つの盲点」

一連の経験を経て、私は結石という病を「痛み」ではなく「構造」で理解すべきだという教訓を得ました。私は以下の3つの大きな誤解をしていたのです。

①「尿酸値が正常=安心」という幻想

尿酸値を下げる薬を飲んでいれば、結石は防げると思い込んでいました。しかし、結石には種類があります。尿酸結石、シュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石……。尿酸値だけを管理していても、シュウ酸という別のルートから燃料が供給されれば、石は物理現象として誕生します。血液検査の数値が正常であることは、結石ができないことの証明にはならないのです。

②「痛みがない=問題がない」という油断

15mmの巨大石も、尿管に落ちるまでは静かに牙を剥いていました。痛くなってから対策を練るのでは、ビジネスで言えば倒産してから資金繰りを考えるようなものです。痛くないときこそ、構造的な問題を解決しなければならないと痛感しました。

③「健康情報」の不完全な受容

緑茶、ナッツ、チョコレート。これら自体が悪なのではありません。問題は「自分の体質に合っているか」という個別性の視点が欠けていたことです。多くの健康情報は「マジョリティに向けた正解」に過ぎません。特定の成分を凝縮して摂取する現代的な食習慣は、一部の人にとっては強力な結石生成器になり得るのです。

結石は「取って終わり」ではない

結石は、一度経験すると数年以内の再発率が50%を超えると言われるほど、「繰り返す病」です。

救急病院では、目の前の石を取り除き、痛みを止めることが使命です。しかし、その後の「なぜ石ができたのか」という原因究明と、再発防止の生活指導まで踏み込める医療体制は、残念ながら十分とは言えません。結石治療は、救急対応の「急性期医療」と、日々の「慢性管理」の間にある、非常に管理が難しい病気なのです。

今回、私が亀田総合病院で得た最大の収穫は、石を取り除いたことそのものではなく、「自分の石の成分を知り、生活習慣を個別具体的に修正する指針」を得たことにあります。

「次の診察は1年後でいいでしょう。その時、1.6mmの石が大きくなっていなければ、あなたの食生活改善は成功です」

主治医の言葉は、私に「完治」という幻を追うのではなく、「共生と管理」という現実的な目標を与えてくれました。

現在、私の家の冷蔵庫には、かつて「健康習慣」として買い溜めていた大量のアーモンド・チョコレートやマカダミアナッツ、そして「小枝」などが、所狭しと並んでいます。食べるに食べられず、捨てるに捨てられず、鎮座したままです。

尿管結石は、単なる激痛の病気ではない。それは「数値が正常でも安心できない」という、現代人の健康観の盲点を突く疾患だ――。私はようやくこのことに気づかされました。結石は“取って終わり”ではない。成分を理解し、生活を調整し続ける「管理の病気」だったのです。

監修:志賀直樹(しが・なおき)

志賀直樹
亀田総合病院 泌尿器科 部長。日本尿路結石症学会 評議員。「尿路結石症診療ガイドライン第3版」(2023年版)システマティックレビューチーム・メンバーとして参加。TUL:経尿道的砕石術(尿管鏡を用いた腎・尿管結石の砕石術)で約3300件の実績を持つ。PNL:経皮的砕石術(大きな結石に対して腎に直接穴をあけて行う高度な高侵襲手術)も約220件手がけたエキスパート。自ら執刀する手術に加え、患者の生活習慣にまで踏み込んだ徹底的な術後の再発予防指導は、医療界の「結石オタク」として信頼が厚い。日々進化する最新の医学論文を網羅しながら、患者一人ひとりに最適な治療を提案している。
(監修=亀田総合病院泌尿器科 部長 志賀直樹医師)
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