※本稿は、宮島賢也『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
「精神科医=心の専門家」ではない
一般の人は、精神科医のことを「心の専門家」と思っているでしょうが、それは大いなる誤解です。僕はこのことを、「心の専門家幻想」と呼んでいます。
なかには「精神科医は医者ではなくカウンセリングのプロだ」と思っている人もいるようですが、それもまったくの認識違いです。病院には「臨床心理士」がいて、医者の指示で、カウンセリングをおこないます。つまり、精神科の医師がカウンセリングをおこなうわけではありません。
一般的には、精神科医は、患者さんから症状を聞き取り、標準的な診断基準にあてはめて診断をして、病気に応じて投薬をします。このように分業体制になっています。医師は、患者さんの症状に加え、仕事や家族関係についてまで聞くこともあります。しかし、うつの原因となっている考え方や人間関係にまでは踏み込みません。
精神科の病気は、症状によって診断します。症状が該当すれば、「うつ病」「統合失調症」などと診断します。
いっぽうで、精神科では、脳生理学に準拠して、うつ病や統合失調症は、脳の機能不全によって起こると考えています。
うつの原因とされる脳内物質
「心の変化は脳の変化」という考え方に立っています。脳には、感情や感覚にかかわる神経があります。
大まかにいうと、図表1のように、「興奮系の神経細胞」「抑制系の神経細胞」「調整系の神経細胞」の3つがあります。これら3つの神経細胞のバランスによって、心はさまざまな状態になります。
それぞれの神経細胞からは、固有の神経伝達物質が、分泌されます。「興奮系の神経細胞」からは、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、グルタミン酸などが分泌されます。
これらがバランスよく分泌されると、気分がよいし、しかも適度な緊張感が保てます。この状態では、元気もあるし、やる気もあります。いっぽう、これらの物質が不足すると、元気も覇気も失われ、気分が沈滞します。
「抑制系の神経細胞」からは、ギャバ(GABA、γ-アミノ酪酸)などの神経伝達物質が分泌されます。ギャバは、脳が興奮したさいに歯止めをかけます。いわばブレーキで、興奮系とのバランスを取っています。不足すると、興奮がおさまらず、けいれんを起こすことさえあります。
「調整系の神経細胞」から分泌される神経伝達物質がセロトニンです。セロトニンの働きは特異的で、元気を出すいっぽうで、興奮し過ぎるとそれを鎮める働きがあります。そして「セロトニンの不足はうつをもたらす」といわれています。


