少子高齢化で急激に痩せ細りゆく日本。その人口や教育や労働経済を語るとき、「新卒一括採用は、時代遅れだ。こんなバカげたことをしているのは日本だけだ。もう、やめてしまえ」という、いまの世間にとって総意であるかのような批判がある。だが、「そもそも新卒一括採用とは何なのか。それは何が、誰にとって問題なのだろうか」と、著者常見は我々を出発点へ引き戻す。

新卒一括採用を「廃止」「見直し」した場合に何が起こるのか?

その副作用に無頓着なまま、しかも新卒一括採用の定義や現状も理解されないまま、就活にまつわる体験談や武勇伝、持論が、さまざまな立場の有力者によって、語られている――。

『日本の就活――新卒一括採用は「悪」なのか』
『日本の就活――新卒一括採用は「悪」なのか』
常見陽平著
岩波新書/900円+税

学歴フィルターや画一的な黒いリクルートスーツに黒髪、内定を人質としたハラスメント。就職氷河期には「100社受けても内定がもらえなかった」といった強烈な否定体験など、確かに問題は山積していた。だが、大人たちが有効な代案を提示することなく新卒一括採用制度を奪った結果、ごく普通の(漫画の主人公みたいな才能や個性や、弱肉強食のインターンシップと早期選考に食い込める厚顔気味の自己主張や、海外経験を与えてくれる太い実家や有名人脈を持たない)、つまりかつての我々と同じ、魔法を使えぬ学生たちがいまどんな就活をしているか、大人たちには解像度が高く見えているだろうか?

学生のキャリア教育を担当する現役大学教員として「未経験の若者が、毎年、学校から職業へと間断なく移行でき、大卒者のうち約45万人が労働力として社会に供給される慣行を否定していいのだろうか」と、昭和から産学の境界に横たわってきた「共犯関係」を穿つ常見は、この新卒一括採用の合理性を考察する。そして明らかにされるのは、日本の労働社会や高等教育機関の矛盾だ。

経済界は経営難を端緒とする雇用見直しで採用への態度を二転三転し、いまでは自由化の言葉のもとに大学1、2年生に内定を出す企業もある。大学は、学者たちは新卒一括採用を理論的に批判する一方、就職率の低さで評価を下げぬよう大学ぐるみでキャリア支援へ予算と人を割く。積極的に就活予備校となる下位大学の売りは「就職に強い」だ。本書は就活論を超え、想像以上に精緻な“失われた30年”の検証であった。

「改めて実感した。私はこの『悪者』(新卒一括採用)とずっと真摯に向き合ってきたということを」との述懐は、企業の採用担当や人材コンサルタント、そして大学教員としても労働市場を長年ウォッチしてきた常見ならでは。就活は、20歳そこそこの学生にとって「大人になる」自己実現と直結した、切実な問題である。これから子ども世代の就活を意識する読者にも、ぜひ届いてほしい一冊だ。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。立教大学社会学部兼任講師。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』(ともに小社刊)ほか。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年1月30日号)の一部を再編集したものです。

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