謎に包まれたビットコインの「創造主」を追う極上のノンフィクション
インターネット上の仮想通貨ビットコインの天才発明者は、なぜか日本人名「サトシ・ナカモト」を名乗り、2011年、誰にも実体を見せぬままごく限られた関係者たちとの音信すら絶って姿を消した。以来、ビットコインが圧倒的な高騰を見せ、社会的認知を得るに至っても決して人前に姿を現さず、謎に包まれた「創造主」として世界中の関心を惹き寄せている。
本書は、かつてWIRED記事で勃興期のビットコインと正体不明のナカモトに言及した米ミラー賞受賞ジャーナリストが、15年の歳月をかけて迫った息もつかせぬ極上のノンフィクションだ。
ビットコインは政府や銀行という中央集権的な存在による監視や支配から解放された「自由な貨幣」としてインターネット空間で生まれたが、その後マネーゲームの投機対象として成長し、高騰。24年1月に米国でビットコインETF(上場投資信託)が承認されたことで機関投資家の参入が加速、今年10月にも過去最高値を更新した。
大手決済企業や金融機関によるビットコイン関連サービスも拡大し、「インターネットのお金ごっこ」ではない金融市場として認識されるに至った。
ビットコイン市場への注目が増すにしたがって、ネットは「サトシ・ナカモト」の正体探しに熱狂し、何人かの候補者や自称者がこれまで取り沙汰されたが、結局は謎のままだった。
それは、もしかして「サトシ・ナカモト」本人がすでに他界しているか、発明者としてもはや小国の国家予算に匹敵する莫大な資産の持ち主となっていることから、身を守っているのかもしれないなどと考えられている。
著者は、あらゆる手を尽くして各「容疑者」に接触、やがて明言はしないものの、この人間であろうとの彼なりの確信へ辿り着く。だがそれ自体が大切なのではなく、ここで見るべきはビットコイン開発をめぐる天才たちがナカモトの正体追究に消極的または批判的で、ビットコインの創造主ナカモトの意思を尊重して探らずにおこうとする「界隈の思想」である。
ビットコインは、サイバー空間に早期から関わっていた、「サイファーパンク」と呼ばれる思想と生き方を共有するプログラマーたちの反体制思想の結晶なのである。
自分たちが開発する暗号化技術によって、政府の監視や介入を受けない、安全かつ追跡不能なオンライン活動が可能になる未来を目指した彼ら。
ナカモトが未知の匿名存在として現れ、やがて姿を消し「追跡不能」であること自体が、ビットコインという仮想通貨の、いや社会思想の設計になくてはならないものだったのだという訳者の指摘が心に残る。
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