「火山防災の日」の8月26日、富士山噴火のシミュレーション動画を内閣府がネット公開した。本書はその概要をわかりやすく解説したタイムリーな啓発書である。著者は東京大学で基礎研究と教育に従事しながら国の噴火予知と防災の要職を務めた火山学者で、研究と行政の両方に長けた稀有な研究者である。

『富士山噴火 その日に備える』藤井敏嗣著 岩波新書/1000円+税
『富士山噴火 その日に備える』藤井敏嗣著 岩波新書/1000円+税

富士山はいつ噴火しても不思議ではないと言われる若い「活火山」である。本書は近未来の富士山でどんな噴火が起こるか、いかに備えるかを中心に、火山学の基本概念を説明する。実は、日本の代表火山とされる富士山のマグマは特異的で、社会が期待する噴火予知がかなり難しいことを率直に述べる。「噴火スタンバイ状態」にある富士山への心構えをていねいに説く姿は真摯しんしで、学者が社会貢献を行うかがみと言っても過言ではない。

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