<「壁の外」にいる私たちは、戦争を遠い出来事として眺めがちだ。だが、戦場には確かに生活があり、愛があり、未来を信じて生きる若者たちがいる:サマ・アブシャイバ>
抗議活動を行うパレスチナの人々
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「壁の外」にいる我々は戦争のリアルを見ようとせず、「数」として捉えがちだ。しかし、戦場となっている場所には、どの死者にも名前や顔がある。

そのことを証明するため、戦場にいる自分たちの声と主張を、悲しみと不屈の希望を10年前から発信しているガザの若者たちがいる。

彼らが克明につづった、戦争のリアルな「内側」を集めたアンソロジーの邦訳『〈ガザ〉を生きる パレスチナの若者たち10年の手記』(原書房)に収録された手記から抜粋。

痛みに満ちた世界において、愛は障壁を乗り越え、厳しすぎるほど厳しい状況に耐える力をくれる。この真実を私に教えてくれたのは、友人のヒンドと、その生涯の恋人であるマリクだ。魂を愛で結ばれたふたりだが、その旅路は思いもよらない道をたどった。

マリクがヒンドの存在を意識するようになったのは、ふたりがガザ市近郊のザイトゥンに住んでいたころだ。マリクはまたたく間に、ヒンドの大きな瞳と希望に満ちた笑顔のとりこになった。

出会ってからそれほど日が経たないうちに、マリクはヒンドと結婚したいという気持ちを自覚し、伝統に従ってヒンドの父に許しを求めた。婚約そのものは古いやり方にのっとっていたが、ヒンドがマリクに対して抱く愛情は本物だった。ヒンドはマリクの誠実さ、ユーモアのセンス、そして心の広さを愛した。

貧困や働き口がないことなど、様々な困難に見舞われたせいでマリクとヒンドは婚約した後も2年にわたって結婚の日取りを決めることができなかった。その間にも、ふたりの絆はますます深まった。なぜ結婚していないのと聞かれると、まだ準備ができていないから、と答えたものだ。