貯金の底が見えてきた
私は無収入のくせにアフリカに留まることで物好き扱いされている。しかし私は、まだ誰も気づいていない謎解きの手がかりを知ってしまった。どうしても謎を解くまで続けたいのだ。人類が平和になるために解かねばならない謎があり、人類史上、初めて自分がそのカギを握っている。やらないわけにはいかんでしょう。
歴代のバッタ研究者の中で、33歳ですでにサバクトビバッタの相変異研究に11年間従事した者はいない。近年、世界的にバッタ研究者の引退が相次いでいるが、若手が育っていない。私がここで踏ん張らなければ、世界のバッタ研究はどうなってしまうのか。
私に残されたアフリカ滞在期間はあと6ヵ月。任期の延長はなく、すでに貯金の底がみえてきたので来年以降自力でアフリカに留まることはできない。年貢の納め時どころか納める年貢も尽きてしまう。今年は雨が降ったので、サバクトビバッタが舞い戻ってくるだろう。許された時間に全てを捧げ、野外調査に力を注ぐべく、長らくお付き合い下さった読者の皆様に感謝しつつ、次回をもって連載を終了いたします。
最後は、自分が最も躍動する姿をサハラ砂漠からお届けします。
(相変異に関する詳しい解説や私のこれまでのバッタ研究の内容は、拙書『孤独なバッタが群れるとき』[東海大学出版会]に綴っております)
『孤独なバッタが群れるとき-サバクトビバッタの相変異と大発生』
前野 ウルド 浩太郎・著
東海大学出版会(http://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-01848-3)
●次回予告
今、万感の思いを込めて、バッタが跳ぶ。
バッタ博士が、モーリタニアの大地へと駆け出していく。
博士とわれわれの別れの日が近づいている。
「待ってバッタ博士、行かないで!」「人類がピンチなんだよ!」
振り向くな、前野ウルド浩太郎、世界を救う男。私たちはその名を忘れない。
いつか再び出会うだろう。そしてそれは、けっこう近い日のことかもしれないし。
次回最終回「史上最大の現場」(9月21日更新予定)、乞うご期待。