練り上げたプレゼンの技が、フィールドで鍛えた研究の力が、通じない。国際学会を終えたバッタ博士は打ちのめされていた。だが、我らがバッタ博士は、そのまま敗れ去るような男ではない。手応えも、確かにあった。とりあえず、モテたし。(インタビュー・構成=プレジデントオンライン編集部)

博士はなぜヘコんだのか

学会参加者同士で親睦を深める小旅行にて。前野「今回は昆明の街からバスで2時間くらいのところにある観光地、石林(せきりん。ストーン・フォレスト)に行きました。ビルみたいにデカい石が林のようになっている公園でした。かなりデカい公園で、本気で歩くと3日かかるそうです」(撮影=前野ウルド浩太郎)
――前回のインタビューで、博士は「ヘコんで帰ってきました」とうなだれていました。何が原因ですか。

前野「……英語ですね。英語が自分はぜんぜん駄目なんだと。ネイティブの人たちが持っているものとは違う。足元にも及ばない。プロとしてやっていくための武器が、かなり欠けすぎていたなと。これはものすごく恥ずかしいんですけど、正直、他の人の発表を100%理解できていない。これはもう、お話にならない」

――なるほど、まず聴くほうの問題ですね。

前野「ほんとうに基礎的な話なんで恥ずかしいんですけど、正直『わかんねえわ……』というのがあって。きちんと鍛えないといけないなと。自分は、自分の納得いく仕事を発表する準備がまだまだできていないんです。早く自分の研究で世界中を『あっ!』と言わせたい。正直言って今回した発表は、まだ不本意なんです。ふつうの発表なんス。手元に温存しているアイデアをきちんとかたちにできたときは、『サバクトビバッタって、そんなことしてたのかよ!』と、世界の生物学者を驚かせる自信が自分はあるんです。早く、納得いく発表をしたい。そのための武器、英語をちゃんとしたい。これをいちばん思いました」

――ここで肝心なことを訊いてしまいます。なぜ学者さんは国際学会で発表するのですか? 研究成果を発表するのであれば、学術雑誌に投稿すれば足りるのでは。今はそれを世界中でインターネットを使って互いに見ているわけですし。

前野「国際学会に出るということは、名前を売るというメリットがあるんです。今回、恐ろしいと思ったのは、自分の名前が売れていないということです。自分、バッタの論文を23本出してますけど、ほんの一部の人しか自分の研究のことを知らなかった」