バッタ博士、前野ウルド浩太郎。出身は東北・秋田県。愛する故郷をバッタの大群が襲い、農作物は全滅、経済は壊滅。東京に見捨てられた東北を救うべく立ち上がったのは、一人の昆虫学者だった……という小説が復刻される。ほぼ主人公と同一人物と言ってよいバッタ博士による魂のブックレビュー。
災いに襲われる東北、それを見捨てる政府
軍事レーダーが捉えた超巨大物体は、日本海を渡って日本本土に接近していた。スクランブルで出撃した戦闘機が目にした異常物体の正体は幅10km長さ20kmにも及ぶバッタの大群。バッタは青森県に着陸するやいなや稲や野菜をはじめとする緑という緑を食い荒らし、高い機動力で次々と緑に襲いかかり、大地は焼け跡と化した。生きる術を失った人々はパニックに陥る。東北を包む破滅の翅音と深刻な飢餓は人々を野獣へと変え、阿鼻叫喚の地獄が生まれる。未曾有の大惨事に立ち向かったのは東北を愛する政治家と昆虫学者。中央政府は非情にも東北6県を見捨てる。天地を埋め尽くすバッタの大群が生み出した闇の中で繰り広げられるバッタと人が入り乱れる熾烈な闘いの先に待ち構えているものは、破滅だった。
たかがバッタくらいで、何言ってんの? この人。妄想するにも程がある、と思われただろうが、貴方のその油断が破滅を手助けすることになるのです。日本ではバッタの大量発生は滅多に起きないので問題視されていないが、最近では2007年に関西国際空港でもトノサマバッタが大発生している。実際にアフリカでは、今現在もバッタが大量発生し、農作物に深刻な被害が出て大勢の人々が飢えに苦しんでいる。2013年、マダガスカルでは国土の半分の農作物がバッタに食い荒らされ、一大事に陥っている。
もし日本でバッタが大発生したらどうなるのか。壮絶な動乱と大惨事を予言した書物がこの世に一作だけ存在する。それは、パニック小説として名高い『蒼茫の大地、滅ぶ』(西村寿行著、1978年刊)であり、このほど東北の出版社・荒蝦夷から装いも新たに復刻される。先の文章はこの小説のあらすじだ。