※本稿は、石川幹人『科学が解明した 悩んでもしょうがないことリスト』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
なぜ人は不安になるのか
不安というのは、小さな恐怖が慢性的に積み重なって解消されない状態です。恐怖というのは、生存が脅かされる危険な状態を避ける心の働きです。
敵が襲ってきたら、戦う、逃げる、隠れるなどの対処をします。戦って勝てれば高揚感になり、逃げきれれば安心感になります。
ところが、隠れるという対処がくせ者なのです。
危険に対して隠れる対処をした場合、危険が去ったかどうかがよく認識できません。隠れていても敵に見つかってしまったら、再度対処をしなければならないので、警戒感が持続してしまいます。危険が去らない状態でコルチゾール(注1)が分泌されつづけ、健康に悪影響を与えるのです。
不安には、発端となる恐怖の対象があります。たとえば、嫌な上司からたびたび小言を言われているとします。言われるたびに下を向いてやり過ごしていると、警戒感が持続してしまいます。「今日もまた言われるかな」と思うからです。
家に帰っても、職場のことを思い出したり、明日の上司との会話を想像したりして、また不安が高まります。
注1:恐怖に伴って分泌されるホルモンで、恐怖が去ると分泌が低下する。不安状態では分泌が継続してさまざまな細胞を破壊。ストレスが健康に悪いとされる主要因。
今の社会で不安が生じる理由
今の社会は、死と隣り合わせではありません。自然界と違って、「誤った行動をとるとすぐに死んでしまう」と警戒する必要はないのです。だから、上司に言いかえしてみたり、「また言ってら」と軽くあしらってみたりすれば、大した問題でないと処理できそうです。
ところがどっこい、人間はなかなか動物的な反射から抜け出せません。死ぬほどの大問題ではないと頭ではわかっていても、警戒心が膨らんでしまうのです。これ、じつは死にそうな恐怖が減ってしまったがために不安が膨らむという、皮肉な関係なんです。
たとえば、大災害が起きてそれを生き延びれば、危険を脱したと認識できて不安が去ります。「上司の小言なんか大したことないや」とも思えてきます。
つまり、安全な文明社会では、「恐怖がやってきてそれを解消する」という自然界でふつうに起きていた循環がなくなったがために、不安が高じるのです。私たちは、ごく小さな危険を過大視して、恐怖を慢性化させているのです。

