アメリカの公聴会では毅然とした態度で謝罪したが、全米ディーラー代表の励ましの言葉に涙ぐむ姿がテレビで放送された。帰国後には社員向けの集会で、声をつまらせて報告する一幕もあった。
「涙をぐっとこらえたスピーチは、トヨタマンの心を揺さぶったはずです。非常にうまいと思いました」(佐藤氏)
人間が泣くときは(1)眼輪筋が盛り上がる、(2)涙がたまる、(3)下眼瞼挙筋が持ち上がる、(4)涙がこぼれる、(5)手でぬぐうという5段階を経ると佐藤氏は説明する。
「ところがウソ泣きのときは順序が逆になって先に手が目のところに行ったりします。更迭されたときの田中真紀子さんが典型です。ユッケの食中毒事件で土下座して謝罪した社長もそう。ウソ泣きはすぐに見抜かれます。豊田さんは本物ですね」(佐藤氏)
クルマ好きの豊田社長は「モリゾウ」の名でカーレースにも参加する。12年2月に幕張メッセで開かれた「トヨタ86オープニングガラパーティー」では、革ツナギを着込んだレーサー姿で登場した。トヨタ社長としての記者会見とは打ってかわって、ファンたちにフランクに語りかける様子は実に楽しげだ。
相手のニーズを確かめながら、振る舞い方を適切に選ぶ器用さは学ぶべきだろう。
(PANA、Bloomberg/GettyImages=写真)