なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。

世界的なカリスマ経営者にしてプレゼンの達人といえば、スティーブ・ジョブズをおいてほかにない。製品発表会でのプレゼンは、極上のお手本として動画の再生回数を重ね、死後ますます評価は高まっている。今回解説してくれた3人も当然ながら大絶賛だ。

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ジョブズが断トツ!イントネーションは「表現力」の指標

「Sの発音が実にきれいで、高周波が出ていますし、腹式発声もできています。聴衆が笑っている間はじっと待ち、間の置き方も見事。しかも非常にリズムがよく、心地よさを感じさせる“ゆらぎ”が出ています」(日本音響研究所所長・鈴木松美氏)

さらに特徴的なのはイントネーション(抑揚)の大きさだ。ジョブズはイントネーションの振れ幅が3.18倍あり、これまで紹介した4人と比べて断トツだ(表)。

「イントネーションが大きいと、感情表現が豊かになります。論理的な説明をしているときでも、断言する場合や疑問を投げかける場合にイントネーションが効果的に用いられると、聞く人の共感と納得に結びつくのです」(鈴木氏)

その豊かな表現力で、インパクトの強い内容が語られる。メッセージを絞り込み、聴衆の記憶に刻みつけるのだ。スタンフォード大学でのスピーチで「私の人生から3つのストーリーを紹介したい」と冒頭に宣言したのが典型だ。

「ジョブズは好みが明確で、すべて自分が決めるという徹底した価値観の持ち主でした。数々の優れた製品と同じく、プレゼンにも余計な点は一切ない。言いたいことはこれ1つと、スライドに単語だけ出すこともあるほど、究極的に突き詰めています」(デジタルハリウッド大学教授・匠英一氏)

黒のタートルネックとジーンズ、歩きながら話すジョブズの製品説明は、プレゼンの常識を塗り替えた。トップ自らが製品や技術について知り尽くし、自信をもって何でも説明する姿は多くの日本の大企業トップとは対照的だ。

「ステージ全体を使い、全身で語る。ジョブズの両手は常にオープンで、顔の向きは自由自在。フルステージ、フルディレクションです。これはもうすごいとしか言いようがない」(日本大学芸術学部教授・佐藤綾子氏)