相手の心に刺さる提案のコツは何か。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「闇バイトのリクルーターや旧統一教会は、『理想』から話す三段階話法で相手の心をアップダウンさせながら、罠にはめようとする。これをビジネスにおきかえると、逆にNGな言い回しは『現状』や『救い』の話を最初にしてしまうことだ」という――。

※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

ミーティングをする男性
写真=iStock.com/courtneyk
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同情と共感を示すような言葉で相手の心をぎゅっと握る

「理想」「現実」「救い」の三段階話法

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「どのような懸案事項がありますか?」

「どうなりたいですか?」

「今の悩みは何ですか?」

「解決できる方法がありますよ」

「これまで、お金に苦しんできて、大変でしたね」「うちで仕事をすれば、借金はすぐに返せますよ」という言葉は、闇バイトを募集するリクルーターが使う常套句です。

闇バイトの調査電話をしていると、相手の持っている悩みや苦しみに共感するようなソフトな対応をしてくることが多くありました。こうした言葉をかけられて心を許してしまい、犯罪行為に手を染めてしまった人も多いはずです。

犯罪グループは応募者を術中にはめるために「理想」「現実」「救い」の三段階話法で相手の心をアップダウンさせながら、罠にはめようとしてきます。先の「大変でしたね」の言葉はそのなかで効果的に使われる話術の一つです。

闇バイトの募集では、最初にお金に困っている悩みを聞いた上で、「どのくらい稼げば借金がなくなるのか」を聞き出し、借金で苦しまない「理想」の姿を思い描かせます。

しかし今は、多額の借金があり、税金も払えず、督促状や電話がかかってくる不安な現状であることを口にさせて、その救いの方法として「仕事は荷物を運ぶだけで簡単です。3~5万円の報酬なので、何回か仕事をすれば今月の支払いは大丈夫ですよ」という言葉をかけて、借金の苦しみから逃れられる話をしてくるわけです。

その際に、冒頭の「これまで、お金に苦しんできて、大変でしたね」「うちで仕事をすれば、借金はすぐに返せるよ」という同情と共感を示すような言葉を話して、相手の心をぎゅっと握ってきます。