詐欺師は相手の情報を聞き出すためにどんなテクニックを使っているのか。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「『いくら貯金をお持ちですか?』というプライベートに踏み込む質問は、相手に警戒心を持たれやすく、直接質問をすることはNGだ。詐欺師は、基準を設定して質問の意図をぼやかして答えやすくしている」という――。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
相手の口から自然に情報が出てくるように仕向ける
「聞く」7割「話す」3割で会話する
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近年、組織的な詐欺による被害が深刻になっています。息子になりすます「オレオレ詐欺」、保険料を払いすぎているからお金を戻しますと嘘をついて逆にATMでお金を振り込ませる「還付金詐欺」など、昔からある手口は、今もなお多くの被害を引き起こしています。手口を知っているはずなのに、なぜだまされてしまうのでしょうか?
詐欺師の電話というと、一方的に話を進められてだまされるという印象を持つ方が多くいますが、詐欺電話の最初の段階では話を聞くことに時間を費やしています。
このような話を聞いて情報を収集するアポイント電話(アポ電)で詐欺師たちは相手の口から自然に情報が出てくるように仕向けます。
例えば、手に入れた名簿をもとに高齢女性の家に家族をかたって電話をかけてきたとします。「オレだけど」といわれると、高齢女性はつい「○○かい」と息子や孫の名前を口にしてしまいがちです。
そして息子や孫になりすました詐欺師は「今、一人なの?」などと尋ねて「おじいさんは出かけていて夕方帰ってくるからね」というように家族構成の情報を巧みに引き出します。この場合、高齢者世帯で二人暮らしである可能性が高いことを詐欺師に把握されてしまうわけです。
さらに「このところ寒いから心配だけど、体は大丈夫?」などと聞いて、現在の様子や、本人の性格も把握しようとします。そしていったん、電話を切ります。
詐欺グループはアポ電で取得した情報を通じて、どのようにして高齢女性をだますのかを考え、その後に詐欺におとしめる本番の電話をかけてくるわけです。

