交渉で相手の反応が悪いとき、説得するにはどうしたらいいか。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「悪質業者にとっては、相手から『高い』というネガティブな言葉が出てくるのは想定内なので、あえてその言葉をいわせて、解決策を提示しようとする。それでも契約に至らなければ、視点をずらして一期一会であることを強調してくるから要注意だ」という――。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
詐欺師たちのネガティブな反応から切り返す話術
本来の懸念から視点をずらして切り返す
×「では少しだけ割引します」
○「長期的にみればこの値段はお得なんです」
相手から否定的なことをいわれ、それに切り返して話を続けることは、苦手だと感じる人が多いかもしれません。マイナスな状況から好転させるには、相当なエネルギーが必要だと感じるからです。
その点、詐欺師たちは、基本的に断られることを想定しているため、ネガティブな反応から切り返す話術に長けています。
ここで、私も体験した絵画商法と呼ばれる悪質な商法の事例をみてみましょう。
絵画商法とは常設店舗やギャラリーではなくイベント会場などで絵画の展示会を開催し、相場よりも高額な価格で売りつける悪質商法です。
街頭で若い女性から声をかけられ、展示を見るだけのつもりで会場に入ると、声をかけてきた女性もついて回り、頼んでもいない絵の説明をしてきます。
一通り見終わると、その女性は「どれか気に入ったものはありましたか?」と尋ね、コーヒーを差し出しながら席にいざない、リラックスさせてきます。
ここで私が「あの絵は素敵でしたね」というと、席まで絵を運んでくれ、女性はここぞとばかりに「この絵を選ぶとは、お目が高いですね。とても人気のある絵なんです。これは150万円ですが、家に1枚あったら心が癒やされますよね。いかがですか?」と切り込んでくるのです。

