凋落していくパナソニックやシャープといった大企業。何をするのが、どこで誰と働くのが、「安定」なのか――。彼らの迷いと決断に迫った。

「10年後の大企業」の最初の50人に

東京・渋谷の東急百貨店の向かいの雑居ビルに、「ハローオフィス」という貸し事務所がある。

居酒屋とファミリーレストランの看板が掲げられ、裏口の駐車ガレージはスプレー缶によるイタズラ書きだらけのビルの5階。カプセルホテルのようにひしめき合う4畳半のオフィススペースの一角に、現役の東大生や大手自動車メーカーの若手社員が就職・転職の面接に頻繁に訪れるというその会社は事務所を構えていた。

テラモーターズ――日本と東南アジア地域で電動バイクの製造販売を手掛ける2010年創業のベンチャー企業である。

私が同社を訪れたのは、高学歴層の学生にベンチャー企業を紹介する人材会社スローガンの伊藤豊社長から、大学生の企業選びをめぐる次のような話を聞いたからだった。

「まだ確かな傾向として表れているわけではありませんが、大企業の内定を蹴ってでもベンチャー企業に就職する学生が徐々に増えていると感じています。彼らはDeNAやグリー、楽天がこの10年で巨大企業へと成長した過程を当たり前のものとして見てきた世代。こうしたことを背景に、『10年後の大企業』の最初の50人になりたいという意識を強く持つエリート学生が、1つの層として現れ始めています」

テラモーターズは、そう語る伊藤社長が多くの学生を紹介してきた企業の1つだった。「有名大学から有名企業へ」という選択肢がありながら、それでも新興企業に就職した若者たちは、どのような考えのもとにその選択をしたのか。そこには今の時代の「働く意識」の変化の兆しが、如実な形で表れているのではないか――。それが同社を訪れた理由だった。