凋落していくパナソニックやシャープといった大企業。何をするのが、どこで誰と働くのが、「安定」なのか――。彼らの迷いと決断に迫った。
働くこの瞬間をわくわく生きたい
東京・目黒で人材サービスなどを展開する「リブセンス」を訪れると、今年4月に入社した3人の新入社員は口々にこう話した。
「名前の知られている大きな会社にいくと、入った時点で自分が満足してしまうような気がしたんです。受験勉強の末に東大に合格したとき、周りからチヤホヤされたのと同じように。それに今の時代はこの先どうなっていくかわかりません。そんななか、テレビで弊社の村上太一代表がしゃべる姿を見て、試しに応募してみたのがきっかけでした」(鈴木健太さん、東京大学卒)
「リブセンスを選んだのは、若いうちから事業の責任者になれる可能性があるから。今、働いているこの瞬間をわくわくしながら生きるためには、10年後に出世してからやりたいことが初めてできるようになる、といった時間の感覚は性に合わないと感じました」(山浦清透さん、京都大学大学院卒)
「自分の力で生きていける働き方を探した結果でした。初めから大企業を全く考えなかったのは、10年くらいは下積みというイメージがあったからです」(安原祐貴さん、東京大学卒)
一方で彼らが一様に同社の魅力として語ったのは、「じっくりとみなが論理的に話し合うことで、仕事が進められていく真面目な雰囲気」「事業の一部ではなく全体に早くからかかわることができる可能性」というものだった。
リブセンスは06年に村上社長が19歳で設立した企業で、昨年は史上最年少での東証一部上場が話題となった。彼自身が学生時代から事業を行っているため、社内には年齢にこだわらないフラットな雰囲気がある。展開するサービスの1つである「転職会議」では、一昨年の新入社員が入社1年目から事業責任者を任されており、新しい事業に初めから携われる組織の小ささそのものに彼らは魅力を見出していた。
前職が人材紹介会社のキャリアアドバイザーだった同社の採用責任者・青野光一さんは、「彼らのような考え方をする学生が、今も大多数である大手志向の学生のなかに少しずつ増えてきている印象がある」と語る。
「彼らはリーマンショックと震災を学生時代に経験し、大手企業の苦境を目にしてきている。自分自身に力をつけ、本当の意味で『安定』するためにも、能力を高められる会社に身を置きたいという考えは今後も強まっていくのではないでしょうか」
●直近2年の新入社員の「東京一工早慶(※)」卒比率100%
社員数60人。成功報酬型の求人情報サイト「ジョブセンス」を核に、情報メディアを運営する。「ノリノリ、イケイケではなく、落ち着いていて、考えるのが得意な人の多い会社で働きたかった」(安原さん・写真右)。「大学の友達はみんな、飲むと仕事の愚痴をこぼしますが、この会社の人は言わない」(山浦さん・写真右から2番目)。
(※)※東大、京大、一橋大、東工大、早稲田大、慶応大。