円安・株高の「アベノミクス」に浮かれている間に多様な働き方の名のもと、正社員の解雇規制の緩和に向けた動きが進んでいる。気づいたときには後の祭りになりかねない。

円安・株高が始まった昨年11月14日から半年目の5月14日。為替相場は半年前に比べて21円安の101円、日経平均株価は70%高の1万4758円の値をつけたこの日、霞が関の合同庁舎4号館共用第4特別会議室ではちょっとした異変が起きていた。

政府の規制改革会議の雇用ワーキング・グループ(座長=鶴光太郎慶應義塾大学大学院商学研究科教授)は最終報告書をとりまとめる予定であったが、関係官庁の厚生労働省の立ち入りを禁じたのだ。

証言するのは民主党衆議院議員の山井和則氏(元厚労省政務官)だ。

「翌日の朝、今回はなぜ入れてもらえなかったのかと聞くと、厚労省の幹部は入れたら情報が漏れるからと言われたそうです。それを聞いて私はピンときました。厚労省は『限定正社員制度』を導入しようとしていますが、田村(憲久)厚労大臣は『多様な働き方を実現するための制度であり、解雇をしやすくするための制度ではない』と言っていました。ところが規制改革会議は限定正社員の制度化にあたって解雇ルールを見直そうと巻き返しを図っている」

規制改革会議は民間の委員で構成する安倍晋三総理大臣の諮問機関。規制改革担当の主務大臣は稲田朋美行革相であり、厚労大臣はメンバーに入っていない。ということはここで決まった雇用制度改革は厚労省を素通りし、総理大臣への答申を経て閣議決定され、政府の方針となる。