濱口氏は制度を普及させるには「国がある程度の基本的ルールを示せば、あとは労使で決めればよい」と語る。すでに限定正社員自体は小売りを中心に導入されているが、明確な契約ルールの下で仕事をしている人は少ない。厚労省も契約ルールのモデルを策定し、勤務地、職務限定正社員の普及を推進していく方針を掲げている。厚労省の目的はあくまで多様な働き方ができる限定正社員になる入り口の整備である。

だが、ここに目をつけたのが規制改革会議だ。たとえば地域の事業所が撤退ないし閉鎖すれば解雇できる、あるいは事業の見直しなどで現在従事している職務がなくなれば解雇できるようにしようというのだ。

規制改革会議の答申では「限定正社員の雇用ルール整備」を打ち出し、今年度に検討を開始し、14年度に結論を出すことを掲げている。雇用ルールの整備とは、勤務地や仕事がなくなったときに正社員よりも緩い解雇基準をルール化することにある。濱口氏は「ジョブ型正社員は入り口から出口までワンセットで提示し、労使双方が納得のいくような仕組みであるべきだ。そうではなく出口(解雇)のところだけに着目し、都合よくつまみ食いしようとしているなら問題だ」と指摘する。

冒頭で紹介した規制改革会議の雇用ワーキング・グループが厚労省を締め出した背景には、解雇ルールまで踏み込むことを知られたくないという事情がある。

では、どのようにして解雇基準を緩めようとしているのか。山井議員は「限定正社員の制度化のなかで労働契約法を改正し、限定正社員については整理解雇の4要件を外し、解雇しやすくすることにある」と指摘する。鴨田弁護士がこう解説する。

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多様な働き方が求められている

「厚労省がモデル契約書や指針を出しても、法的根拠は何もありません。勤務地限定契約を結び、よそには配置転換はしませんという約束で働いていても、事業所の閉鎖で働く場所がなくなったとします。これまでの裁判例では、勤務地限定契約を結んでいたとしても、少なくとも解雇するに際しては、どこかに転勤できないのかと打診するぐらいの解雇回避努力をしない解雇は性急すぎるという判断をしています。学説上もおおむねそういう判断に異論は出ていません。だからこそ契約法16条や4要件を排除したいのだと思います。もし解雇に法的効力を持たせるには、契約法16条の2項に『当事者間に解雇事由についての合意があれば、それが優先される』という規定を置けば、4要件をすり抜けることができるでしょう」