また、民主党の山井議員は制度の導入によって、事前型の理不尽な解雇が横行することを危惧する。

「事後型の金銭解決制度を導入すれば、どうせ裁判で勝っても復職できないよ、お金を払うから辞めてくれ、という経営者が増え、結局事前型の解雇が横行する危険があります。いちばん怖いのは世の中の風潮。経営者の多くは法律に詳しいわけではない。結果的に経営者が今まで正社員を解雇できなかったが、金を払えば切れるんだ、労働者も金を払って切られるかもしれないという風潮が蔓延し、圧倒的に労働者が不利になるのは間違いありません」

実は規制改革会議の雇用ワーキング・グループが金銭解決制度の創設以上に重視しているのが、解雇をしやすくする「限定正社員制度」の導入。限定正社員とは勤務地や職務、労働時間を限定した、正社員と非正規社員の中間に位置する雇用形態だ。

仕事の内容や勤務地を限定した柔軟な働き方ができるようにしようという発想から生まれたのが限定正社員だ。いわば家族やプライベートを犠牲にしないワークライフバランス的な働き方である。

ジョブ型正社員とも呼ぶが、その提唱者である独立行政法人労働政策研究・研修機構労使関係部門の濱口桂一郎統括研究員はこう語る。

「会社の命令で職務が変われば、時間外労働もする、遠距離配転など勤務地もいくらでも変わるというのが日本の正社員です。その中のどれか1つでも限定した働き方をするのがジョブ型正社員であり、そうした働き方を労使の自由な契約によって結ぶというのが私の基本的なイメージです。契約内容を細かく書くか、おおまかに書くかは自由ですが、労使ともに契約の枠を超えた要求はできないし、権利もない。どんな契約を結ぶかは労使の話し合いで決まりますが、たとえば、出版社との契約で職務を雑誌編集と書けば、廃刊になれば辞めざるをえなくなる。ただし、出版物の編集とすれば、廃刊しても書籍に異動できますが、経理や営業に異動させられることはありません」