実は世の中が安倍総理の賃上げ要請によるボーナスアップや円安・株高バブルに浮かれている頃、政府内ではアベノミクスと連動する形でサラリーマンの解雇規制の緩和に向けた動きが着々と進行していたのだ。最初に口火を切ったのは産業競争力会議が3月15日に提出したペーパー(長谷川閑史・武田薬品工業社長)だった。その内容は解雇規制の緩和を前面に押し出したものだった。
<現状では大企業が人材を抱え込み、「人材の過剰在庫」が顕在化している。大企業で活躍の機会を得られなくても、他の会社に移動すれば活躍できるという人材も少なからずいるはずであり、「牛後となるより鶏口となれ」という意識改革の下、人材の流動化が不可欠である。現行規制の下で企業は、雇用調整に関して「数量調整」よりも「価格調整」(賃金の抑制・低下と非正規雇用の活用)に頼らざるをえなかった。より雇用しやすく、かつ能力はあり自らの意志で積極的に動く人を後押しする政策を進めるべきである>
積極的に動く人を後押しし、人材の流動化を促すと唱えるが、その狙いは「数量調整」、つまり解雇をしやすくすることにあることは明らか。具体的には「雇用維持型の解雇ルールを世界標準の労働移動型ルールに転換するため、再就職支援金、最終的な金銭解決を含め、解雇の手続きを労働契約法に規定する」ことを提案。これは企業が再就職支援金を労働者に支払うことを条件に解雇できることを法制化するというものだ。
では法律をどのように変えようとしているのか。その前に現行の解雇規制の中身をおさらいしておこう。1つは労働契約法の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(第16条)という規定だ。だが、これだけではわかりにくい。客観的に合理的理由とは何かを示すもう1つの根拠となっているのが最高裁判所の判例だ。判例では整理解雇をする場合、(1)経営上の必要性があるか、(2)解雇回避努力をしたか、(3)解雇対象者の人選は合理的かつ公正か、(4)労働組合または労働者と協議したか――の4つの要件をクリアすることを求めている。