心の中で声をかけながらご遺体と対話
私は納棺師を生業としています。納棺師というのは、葬儀会社から仕事を請け負い、亡くなられた故人様のご遺体を火葬するまでの間、できる限りきれいな状態に整えて維持する仕事です。2009(平成21)年にアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』をご覧になった方は、私が納棺師だと名乗ると「ああ、『おくりびと』ですね」とすぐに理解してくださいます。実は、あの映画で納棺の技術指導を務めていたのは私の父親でした。
どんなお手伝いをするかというと、故人様のお体を拭き清め、仏衣にお着せ替えする。お顔に化粧を施し、髪を整える身支度をしてから、棺に納めるまでを取り仕切ります。15(平成27)年からは、納棺師の専門性を軸に、葬儀に新たな価値を提案する「ディパーチャーズ・ジャパン」を立ち上げ、「おくりびとのお葬式」というブランドでご葬儀全体をプロデュースしています。ご葬儀に一貫して関わることで、故人様に寄り添い、ご家族も安心できるご葬儀を提供しています。
「はじめまして、よろしくお願いします」。納棺師の仕事は故人様にご挨拶するところから始まります。手を合わせ、ご挨拶をしてからお体に触れます。そして心の中で声をかけながら対話していきます。「あ、お孫さんが来てくださいましたよ」「すてきな手ですね。どんなお仕事をされていたんですか」などのように、まるで生きている人と話をするように語りかけていきます。私の妄想にすぎないのかもしれませんが、なんとなく「ありがとう」と言ってもらえた気がしたり、単純な対話をしているような感覚はいつもあります。
ただし、ご遺族が不快に感じられることがあったり、スピリチュアルな話のように思われてしまったりするので、そこは気を付けています。私としてはあくまでも、ご遺体は物ではなく人という認識があるので、人に施術をする意識を持ちながら納棺の儀式を進めています。目の前にいらっしゃる方と関係性をつくっていくのは、生きている人間と同じです。
そして一人ひとりには、さまざまな物語があります。故人様については、立ち入りすぎないように気を付けながら、ご遺族から丁寧にお話をお伺いし、一人ひとりの人生や生き方を浮かび上がらせるようにしています。それらの情報を基に、お別れの時間に生かす「おくりびとのおくりもの」という形で、故人様とご遺族へプレゼントをお贈りするようにしています。
打ち合わせで涙を見せなかった9歳の喪主
先日、スタッフから報告を受けた出来事がありました。お父様と9歳の娘さんの2人暮らしのご家庭で、お母様はいらっしゃらない、父子家庭だったそうです。お父様はバイクがとてもお好きで、ある朝、いつものように「行ってきます」と出かけられたまま、バイク事故でお亡くなりになりました。
喪主となったのは、わずか9歳の娘さんです。スタッフと共に、葬儀の内容を一つひとつ決めていく必要がありました。当然、丁寧にサポートは行いましたが、それでも娘さんは自分なりに一生懸命考え、判断をされていたそうです。
そして、打ち合わせの間、一度も涙を見せなかったと聞いております。ただ、スタッフは最後の飾りつけに非常に悩んだそうです。バイク事故で亡くなられている事情もあり、バイクに関連するものを用いることにためらいがあったといいます。しかし、娘さんから「お父さんはバイクが大好きだった」と聞き、それならばと、スタッフが提案したのは、バイクの鍵を2つ作るというものでした。一つは、お父様の胸ポケットに納め、もう一つは「もしよければずっと持っていてね」と娘さんに手渡しました。そして実際に、お父様の胸に鍵を入れたその瞬間、それまで気丈に振る舞っていた娘さんが、初めてぶわーっと涙を流されたそうです。
私たちは、こうした感情のタイミングは人それぞれだと考えています。無理に悲しみを引き出すのではなく、ご遺族の方が自然に心の蓋を開けられるよう、そっと寄り添う。言葉だけではない非言語の対応も大事にしています。なかなか上を向いて目を見て話すのが難しい状態の方がいたり、本当に立ち上がれない方もいらっしゃるので、高齢の方とお話をするときは、私のほうが屈んで目線を合わせ、ご遺族の方に椅子に座っていただいて話しやすい雰囲気をつくります。相手の表情をしっかり読み取りながら相槌を打ち、耳を傾けるのです。下からでもなく、上からでもなく、横の位置でしっかりご遺族の気持ちに寄り添い、コミュニケーションを取って短い時間で信頼関係をつくっていく。それが私たちの役割だと思います。
私が会社を立ち上げるきっかけとなったのは、ある納棺との出合いでした。正直に言うと、最初から深い志があったわけではありません。始めたころは、ただの「下請け納棺師」として葬儀会社の指示で動く日々でした。技術やスキルを磨くことに必死で、「一人前になりたい」と努力はしていましたが、ご遺族の心情に寄り添う覚悟はあまりなかったと思います。
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