人工知能(AI)の進展で、医療の世界も目覚ましく進歩している。それによって、「生きること」に対してどのような価値観の変化が起こるのだろうか。
聴診器とパソコンを使う医者の手
写真=iStock.com/Phanphen Kaewwannarat
人工知能によって、治療困難ながんが寛解したり、認知機能が改善したりするケースが報告されている。だが、そのメカニズムを理解するのは難しい。近い将来、すべて人工知能にお任せする医療が普及するかもしれない。

研究の進展が著しい人工知能だが、その中心となっているアメリカ・シリコンバレーにおいて流行っているものがあるという。

それは、ずばり、「不老不死」。人工知能の開発を進めている研究者、起業家の間では、永遠の若さと生命を本気で願い、実現しようとしている人が多いというのである。

人工知能のような新しい技術によって、人間の生き方や社会のあり方を変え、文明を前進させようという思想は、「プロメテウス主義」と呼ばれる。人類に火をもたらしたとされる神話上の存在、プロメテウスにちなんだ言葉である。もともとは多彩な歴史的経緯を持つ表現だが、ここ数年は特に人工知能をめぐる楽観的な見方と結びつけて用いられる。

人工知能が社会にもたらす変化にはさまざまなものがあるが、人間の欲望は、究極のところ、「老化を遅らせる薬」や「体を若く保つ薬」に向かうようだ。もともと、自分たちが人類の歴史を切り開いているという万能感を持ちやすい人工知能開発者たちだが、その延長線上に不老不死をごく自然に夢見ているケースが多い。極論すれば、自分たちはいつまでも若く、死なないと思っているのだ。

確かに、プロメテウス主義の楽観論には、それなりの根拠がある。これまでの常識で言えば10年、20年かかっていたような研究が、人工知能や自動的に実験を推進するロボットの力を借りると、数カ月から1年で進む可能性が出てきている。とりわけ、がんや認知症といった多くの人を脅かす病気を、人工知能で克服できるかもしれない。もしそうなれば、人類は大きな変化を経験することになるだろう。

関係する因子が多数あるような複雑なシステムの分析および問題の解決法の発見において、人工知能に期待が集まる。これまでも、治療困難ながんが寛解したり、認知機能が改善したりするケースは報告されている。そのメカニズムは未解明だが、どうやら多数の因子が関与しているらしい。さまざまな条件がすべて符合すると、いわば「合わせ技」で健康を回復することがあるようなのである。

これまでの医学では、例えばある薬を投与した群とプラセボ(偽薬)を投与した群を比較して、どれくらい効果の差があるかというようなアプローチがとられてきた。このような方法に基づく研究開発も、人工知能によって進む可能性がある。

加えて、これからは、単一ではなくさまざまな因子が絡むような複合的な治療法が、人工知能によって開発される可能性がある。少数の薬やサプリ、生活習慣の効果による治療ではなく、例えば数十項目にもわたる要素に基づく総合的な作用による症状の改善、アンチエイジングの実現である。

問題は、そのような治療法や若返りの方法が開発されたとしても、それがなぜうまく働くのかを人間は完全には理解できないかもしれないということだ。なぜかはわからないけれども、人工知能の指示の通りに投薬、生活習慣の改善などを行えば、事実上の不老不死が実現する。そのような時代が来るかもしれない。

すでに、囲碁や将棋、チェスなどのボードゲームにおいては、人工知能の指示する「次の一手」がトップクラスの人間の棋士にも理解できないという事態が当たり前になっている。医療やウェルネスの分野でも、そのような時代が来る可能性は十分にある。

(写真=iStock.com/Phanphen Kaewwannarat)

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