自動運転や、大阪・関西万博で公開中の「空飛ぶクルマ」、さらにはさまざまなロボット関連技術の発展によって、移動すること、モビリティの未来への関心が高まっている。
人間の脳の働きと関係して注目されるのは、移動中にアイデアがひらめくときが多いことである。車を運転していたり、車で移動しているときに新しい発想が浮かぶことはしばしば経験する。自転車や電車、飛行機の移動の際にも気づきや発見が多い。
なぜ移動中はアイデアがひらめくのか。この現象を脳の働きから説明する際に鍵になるのが、「感覚遮断」である。
昼間、私たちが仕事をしたり、生活の中のさまざまな活動をしているとき、脳はリアルタイムで入ってくる情報を処理することで忙しい。現代人がスマホやコンピュータなどのモニターを見ている時間は長いが、その時々で入ってくる情報を受けて、適切な判断や行動をすることに追われている。
リアルタイムの情報処理は仕事や学びに欠かせないが、一方で、脳が十分に自律性を発揮できないことにもなる。脳がひらめくためには、インプットされる情報に振り回されることなく、「アイドリング」していることが必要である。そのために、感覚遮断が重要なのである。
ここに、感覚遮断とは、外界からのインプットを制限することで、脳が外界から入ってくる情報にあまり注意を向けずに済む状態を指す。もちろん、ある程度の感覚情報は入ってくるのであるが、脳がフルタイムで処理をする必要がない程度に抑えるのである。
例えば、瞑想は感覚遮断の有力な方法である。静かな場所で坐禅をし、目を閉じることによって、外から入ってくる情報を絞ることができる。そのことによって、脳はアイドリングをして、さまざまな気づきを得ることができる。
サウナに入ったり、お風呂に入ったりすることも、感覚遮断の効果的な方法である。目を開けていても、周囲をぼんやりと見ている程度ならば、脳は良い具合にアイドリングできる。実際、サウナやお風呂でひらめいた経験を持つ人も多いだろう。
徹底して感覚遮断をする方法としては、イルカの言語の研究でも知られたアメリカの脳科学者、ジョン・C・リリーが考案した「アイソレーション・タンク」がある。身体と同程度の密度、温度の液体で満たされたタンクに入って、心を整える方法として発明された。今でもウェルネスに関わる施設などで使われている。アイソレーション・タンクに入った人は、さまざまな空想をめぐらし、時には幻覚を見たりすることが知られている。
脳がリラックスして、ひらめくためには感覚遮断が有効である。ところが、脳はあまりにも感覚情報が遮断されてしまった状態だと、かえって自由な発想ができなくなることも多い。情報の不在によって退屈してしまったり、その空白を埋めるために、アイソレーション・タンクに入った人のように、鮮やかな幻覚を見たりする。
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