一人になった後のことはそのときに考えればいい

子どもがいれば、老後は子どもや孫に会うのが楽しみだという人もいるでしょう。一方で、子どもがいなければ、財産を遺す必要もないですから、自分のために楽しく散財すればいいのです。私の知り合いでも、車を買い替えたり、海外旅行に行ったりして人生を謳歌している人がいます。要は、結婚していようが、子どもがいようが、いつ一人になるかはわからないのですから、今の自分が置かれた状況に合わせて、その時々の楽しみを見つけるのがいいのです。

そうは言っても、今さら楽しみなんて見つけられないという人もいるかもしれません。趣味がなく、仕事が生きがいになっている場合は、仕事をすべて終えた途端に気持ちの糸がふっと切れて、そのまま死んでしまうということもあります。私の知り合いの教授は、死ぬ直前にたくさんの本を出版して、「もうこの世で会うこともないでしょう。それではお元気で」と私にメールを送ってきて、すぐに亡くなりました。仕事をすべて終えてほっとしたのでしょう。そういう幕の引き方もあります。

会社勤めだと、定年制がある以上、死の間際まで打ち込めるものを仕事に見出すのは難しいかもしれません。定年を迎えて「さて、余生を楽しむぞ!」という人もいれば、「何をすればいいかわからない……」という人もいる。出世を生きがいにしていた人は、定年になれば出世することもできないので、生きがいがなくなってしまいます。だからこそ、仕事を生きがいとする50代には、仕事以外に楽しいことを今のうちから探しておきましょうと言いたい。

趣味があるかないかで、老後の楽しさは大違いです。私は虫を見るのが楽しいから、暇さえあれば標本を山ほど作っています。「そんなに作ってどうするの」と人からは言われるけれど、標本づくりそのものが楽しみなのです。

昨年は養老孟司さんと対馬に行って虫採りをしました。85歳の養老さんと75歳の私とで、一生懸命になって虫を探しましたよ。虫採りが趣味の私の知り合いは皆、70になっても80になっても健康です。虫採り自体が運動になりますからね。

今はやりたいことが見つからなくても、思わぬきっかけで夢中になれるものが見つかることもあります。私の妻はその好例。私が採集したカミキリムシの絵を描いてもらったら、笑ってしまうぐらい下手だったということがありました。でも、私に笑われて腹が立った妻は、心に火がついたのか、絵を描くことにハマって、あっという間に上手になったのです。今でもステンドグラスなどを作るなどして、絵や造形に凝っています。本人も知らない、美術の才能があったのでしょうね。

興味がなくても、やってみれば意外な才能が見つかるかもしれません。とにかくやってみたかったこと、今まで挑戦できなかった新しいこと、好きなことをやり切るつもりで、おまけの人生を楽しく生きればいいのです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

(構成=水嶋洋大 撮影=的野弘路 図版作成=大橋昭一)
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