※本稿は、アンジャン・チャタジー『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(草思社)の一部を再編集したものです。
発端は「犯罪者の典型的な容貌」を調べる研究だった
狭量な偏見は別にして、顔の魅力を測定するのに信頼できる方法はあるだろうか。顔の魅力にかかわるパラメーターは3つあるが、いずれも民族の壁を超えた普遍性をもつ。第1のパラメーターは平均性で、第2のパラメーターは対称性である。いずれも男女ともにあてはまる。一方、第3のパラメーターは男女を外見的に区別する特徴、すなわち性的二型だ。
魅力の尺度として平均性が発見されたのは偶然だった。キャサリン・ブラックフォードが白い肌をポジティブと見なすより早く、フランシス・ゴールトンは特定の顔の特徴が特定の性格特性を表すかどうかに関心を抱いた。ゴールトンはダーウィンのいとこで、優秀な統計学者、人類学者、探検家だった。統計的相関性や指紋法を発明したのは彼である。
優生学も唱導し、犯罪者の顔に共通する特徴を見出せないかどうかに関心をもった。「謀殺、故殺、暴力行為を伴う強盗で有罪判決を受けた」多数の犯罪者の顔を1枚の写真乾板の上に重ね、合成された顔から犯罪者の典型的な容貌を明らかにしようとした。ところがゴールトンが見出したのは犯罪の黒幕の顔ではなく、合成の素材とした個々の顔よりも合成された顔のほうが魅力的になるという事実だった。
「平均した顔=平凡な顔」ではない
ゴールトンは、平均した顔立ちが魅力的であることを発見した。現代の研究方法により、この予期せぬ発見の正しさが証明されている。「平均した」顔は平凡な顔とは違うということをはっきりさせておく必要がある。平均した顔は、鼻の幅や両目の距離といった特徴が統計的に平均されたものとなっている。
かつては平均化実験の妥当性について疑念の声があった。合成した顔は個々の顔の線がぼやけ、若く見えるという点が問題視された。ファッション写真家がしばしば用いるソフトフォーカスのぼかしと同じ効果が生じていたのだ。しかし最近のコンピューター技術により、この方法に伴う問題が回避され、集団の中心的な傾向を表す顔が個々の顔よりも魅力的に感じられることがはっきりした。赤ん坊でさえ、こうした「平均した」顔を見せられると、そうでない顔のときよりも長くその顔に目を向ける。