一卵性双生児でも顔の「対称性」は違う

顔の魅力の定量的なパラメーターとしてはもう1つ、対称性もある。人類学者のカール・グラマーと生物学者のランディー・ソーンヒルは、顔の幾何学的中心の左右両側にあるさまざまな顔のパーツ間の距離を測ることで顔の対称性を調べた。その結果、この対称性指数は男女の顔の魅力に関する評価と相関することが明らかになった。

これ以降に行われた数々の実験でも、この結果が裏づけられている。一卵性双生児の写真を使って、対称性の効果に焦点を当てるというおもしろい実験も行われた。当然ながら一卵性双生児はそっくりに見えるが、その顔にはじつは微妙な違いがある。遺伝子が完全に同一であっても、環境への曝露は同一ではないのだ。研究者らはまず、双生児の顔を比べて、対称性が高いのはどちらかを判断した。そして対称性が高いほど、魅力的と思われる度合いが高いことが判明した。つまり双生児の顔においては、多くの点で似ているにもかかわらず、対称性が魅力の度合いに影響していた。

性的二型とは、性別によって生じる形態的特徴の違いを指す。すでに見たとおり、平均性と対称性は男女どちらの顔についても魅力の度合いに影響する。一方、男女の魅力のあり方に違いをもたらすものは何なのか。性的二型の形態的特徴をもたらすのは、性ホルモンのエストロゲンとテストステロンだ。エストロゲンが女性的な特徴をもたらすのに対し、テストステロンは男性的な特徴をもたらす。文化を問わず、異性愛者の男性は女性の女性的な特徴に魅力を覚える。

ミッキーの「見た目」は80年間変わり続けている

エストロゲンの作用で生じる形態的特徴は、赤ん坊の顔の特徴と似ている。赤ん坊のように感じられる顔は眼が大きく、眉が薄く、額が広く、頬が丸く、唇がふっくらし、鼻が小さく、顎も小さい。

これらの「愛らしい」特徴は人に好まれる。ウォルト・ディズニーもこの事実を利用した。1928年、ミッキーマウスが映画『蒸気船ウィリー』でアニメーションとしてのデビューを果たした。このときのミッキーは、細長くしなやかな体つきだった。しかし1935年には、アニメーターがミッキーマウスに洋梨型の胴体を与え、眼に瞳孔を加え、鼻を低くした。ミッキーマウスをめぐって興味深いのは、彼がどんどん赤ん坊のようになっていることだ。頭と眼が大きくなり、手足は短くなり、80年間に歳を重ねてもなお、その変化は止まらない。

初期のミッキーマウス(1928年)
写真=WALT DISNEY/Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ
初期のミッキーマウス(1928年)

成人男女の顔の写真を加工して、もっと赤ん坊のように見せたり、逆に赤ん坊らしさを弱めたりすることができる。この操作は魅力の度合いに影響するだろうか。男性は、実年齢より若く見えて赤ん坊のような特質を備えた女性をより魅力だと感じる傾向がある。広い額、大きな眼、小さな鼻、ぷっくりした唇、小さな顎をもつ女性を好む。これらの特徴はエストロゲンの豊富な状態と関連し、女性の生殖能力を表す。

ただし男性は、赤ん坊の特徴の1つであるふっくらした頬を成人女性が備えていても魅力を覚えない。むしろ成熟のしるしである突き出た頬骨を好む。どうやら男性は、若さと生殖能力を表す特徴を好むが、そこにいくらかの性的成熟も求めるらしい。