優先席の概念は座席から“エリア化”へ

譲りあいマナーにとどまっていた優先席の存在を、利用者に強く意識させたのが携帯電話の電磁波問題だ。2000年代初頭の「第2世代(2G)携帯」は心臓ペースメーカーに影響を与える可能性があり、体が密着する満員電車では万が一の事態が否定できなかったため、関東鉄道各社は2003年に「優先席付近では携帯電話の電源を切り、優先席以外ではマナーモードに設定する」という統一ルールを設定した。

また「優先席付近」を示すために、つり革や手すり、壁、床などをオレンジ色にして、エリアを視覚的に区別するようになり、一部の事業者は「おもいやりぞーん(ゾーン)」と名付けている(近年はユニバーサルデザインの観点からオレンジ以外の採用も見られる)。

当時から賛否両論あった携帯電話統一ルールの評価はともかく、結果として優先席の概念を座席そのものから車端部のエリア全体へ変えたのは確かだろう。

優先席の「エリア化」を促進したもうひとつの要因が「車いすスペース」だ。首都圏では1990年代以降、優先席の向かいに車いすスペースを設置した車両が増えていき、交通弱者を補助する空間として両者は一体化していく。

写真=iStock.com/Mindaugas Dulinskas
※写真はイメージです

1か0かの専用席は時代に即していない

その後、国土交通省が2014年に統一的な「ベビーカーマーク」を制定すると、「車いすスペース」は、ベビーカーや大きな荷物を持った人も使える「フリースペース」として再定義された。鉄道各社は新型車両から順次、フリースペースの設置を拡大しており、1両あたりフリースペース1つ、優先席3カ所を設定するスタイルが主流となりつつある。

こうして「シルバーシート」「車いすスペース」という個別具体的な目的の設備は、対象を広げた「優先席」「フリースペース」へ移行し、優先席は座席そのものを指す言葉から、車端部のエリア全体を指す概念へと変化した。JR東日本は現在の優先席利用について「優先席の対象者に優先順位は定められていない。必要に応じて利用者間で譲りあって使用してほしい」としている。

札幌市営地下鉄の「専用席」は1974年という極めて早い時期に設定されたため、高齢者、身体障害者など外見で判別しやすい対象者を想定した仕組みとされた。しかし対象者が多様化し、また座席のみならず空間そのものを共有するようになるにつれ、1か0の専用席ではこぼれ落ちる人々が増えてしまうのではないかと思うのだ。