まずは「その人は何に困っているか」を知ろう
ただし筆者は札幌市営地下鉄の取り組みを否定するものではない。50年前に掲げた理念が今も守られているのは、関係者の努力と市民の協力の結果であり、賞賛すべきものだ。本稿で指摘した外見では分かりにくい弱者にも配慮できているのなら、無理にやり方を変える必要はない。
だが他都市における優先席が抱える問題を、専用席化で解決することは困難、いや、むしろあるべき姿から遠ざかりかねないというのが筆者の主張だ。
多数の見知らぬ人々が共存する公共交通機関で生じる利害の対立を1か0で解決することは困難である。また優先席対象者と非対象者の関係は固定的ではなく、ケガや病気、老化あるいは体調の変化で利用者側に移る可能性は誰にでもある。
どのような人が優先席に座っているのか、その人は何に困っているかを知ることは、他者への理解と思いやりを深める第一歩になるとともに、自分にも優先席の利用機会が巡ってくる可能性があることを知るきっかけにもなるのである。