いっそのこと「専用席」にすべき?
鉄道利用マナーにおける古くて新しい問題が「優先席」だ。子連れや病気を患っている人が優先席に座っていたらトラブルになったとか、空いている優先席に座ることの是非を問う記事は定期的に目にするし、近年はバスの優先席に座っている女性を無断撮影し「障害者でも妊婦でもないのに座ってマナーが悪い」とSNSに投稿する人まで登場した。
こうしたトラブルを防ぐために対象者を明確にした専用席にすべきではないかという声がある。国土交通省の調査によれば公共交通機関利用者の6割が「優先席に座らない」と回答していることを考えれば、面倒事を避ける専用席化は最適解のようにも思えてくる。
そんな「専用席」を全国で唯一、設置しているのが札幌市営地下鉄だ。
札幌市営地下鉄はゴムタイヤで走ったり、網棚がなかったりと、何かとユニークな存在だが、高齢者と障害者を対象として1974年に設置した「優先席」についても、優先利用の対象者が座れないとの声が多く寄せられたことを受け、導入翌年に「専用席」に改めた。
専用席化の効果を定量化するのは難しいが、宇都宮大学の土橋喜人客員教授らが2019年に行った調査によれば、札幌の優先利用対象者利用率は、関東の19.9%に対して93.9%、専用席空席率は55.4%で、関東の優先席空席率22.1%を大きく上回っており、実効性の高い取り組みだと評価している。
朝ラッシュの満員電車でも絶対に空けてある
筆者はラッシュ時間帯の札幌市営地下鉄に乗ったことはないものの、札幌赴任経験のある担当編集氏によれば、朝ラッシュの混雑にあっても「専用席の3席分はぽっかり空いたまま」も珍しくないそうだ。「内地」の人間が知らずに座って冷ややかな視線を浴びるのは定番エピソードになっているが、一方で空いているのに座ってはいけないのは非合理との否定的な意見もある。
札幌と異なるアプローチを試みたのは、全車両、全座席を高齢者や障害者の優先利用対象とする「全席優先席」を2003年に導入した横浜市営地下鉄だ。優先席・専用席に限らず席を必要とする人に譲るべき、優先席という区分自体が必要ないというのは確かに理想だが、現実とのギャップを埋めるに至らず、2012年に「ゆずりあいシート」という名前で事実上「優先席」が復活している。
優先席、専用席、全席優先席、それぞれの取り組みに利点と欠点があるが、少なくとも日本人の規範意識下においては、「外部の視線」が成否を分けるのだろう。専用席は優先利用の対象者以外は「座らない」ことが、優先席では対象者が来たら率先して「譲る」ことが求められ、振る舞いは外部の視線に晒される。