コメを作れば高くなり、野菜・果物だと低くなる

1人が1日に必要とするカロリーのうち、国産の食料で賄われた分ということだ。都道府県別の自給率を示すとなると、それは県産になる。

コメやムギといった穀物を作るほど、カロリーベースの食料自給率は高くなる。野菜と果物はカロリーが低いので、現状の自給率38%のうち、わずか2%と1%でしかない。

畜産物の自給率は、国産の飼料を与えたぶんしか反映されない。日本は飼料の大半を輸入に頼っているので、畜産は自給率全体のわずか3%にしかならない。それだけに、畜産が盛んで農業産出額4位の宮崎は、食料自給率が64%で15位に沈む。

食料自給率で2位の秋田は今後、そのパーセンテージを高め続けるはずだ。12年度は177%だったので、10年間の増加率は15%となる。これにだいたい対応するのが、人口の減少率だ。106万人から93万人弱(いずれもその年の10月時点)に減ったので、およそ13%の減である。同県の人口減少率は日本一で、コメを大幅に減産しない限り食料自給率は勝手に上がっていく。

「高ければいいってものでは、ないんですね」

知り合いの秋田県民にそのからくりを説明したところ、しみじみとこう言われた。

人口が減るほど、そして儲かりにくい穀物を作るほど、食料自給率は上がる。だから、その値が高いということは、一部の地域を除いて、農業が弱体化していることに外ならない。

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食料自給率は農水省の政策の「一丁目一番地」

カロリーベースで食料の6割以上を輸入する日本は、有事に備えて食料自給率を上げなければならない――。そんな主張をする農水省にとって、食料自給率は一丁目一番地である。

同省の元事務次官である渡辺好明さんは、「農水省が政策を作るうえで最も重視する指標は、『食料・農業・農村基本計画』に数字で載せています」と話す。同計画の筆頭にくる指標こそが、食料自給率だ。

同計画は、政府が中長期的に取り組むべき方針をおおむね5年ごとに定めるもの。72ページあるうち、2割近い13ページという紙幅を食料自給率に充てている。

目下、強力な追い風となっているのが、ロシアによるウクライナ侵攻。ロシアとウクライナという一大穀倉地帯で戦争が起きたため、穀物価格が一時暴騰し、世界の飢餓人口が増えた。

食料自給率の向上が絶対に必要だと受け止める人は多いし、マスコミもこぞってそう伝える。本当にそうだろうか。