都道府県にとっては「あってもなくてもいい」指標

農水省大臣官房政策課の食料安全保障室は、都道府県別の自給率を出している。

「食料自給率目標の達成に向けて、地域段階での取組の推進のため、参考データとして利用してもらうことを目的に都道府県別の食料自給率を試算しました」

公表の理由をこう説明する一方で、「都道府県に対し、とくにこうしてくださいという働きかけはしていない」。

食料自給率を重視するのは国のみで、都道府県の農政はほとんど注意を払っていない。国からも、お宅の県は何%まで高めなさいという指導は、ない。知事が「わが県の食料自給率が低くて大変だ」と言っているのは耳にしたことがない。

結果として、そもそも自県の食料自給率を知っている人は少ないはずだ。

例外は北海道。カロリーベースの食料自給率で1位であるだけに、道は順位や223%という数字を比較的強調している。

同2位は204%の秋田県である。私は本書の取材を始めてからそれを知り、「え、そうだっけ」と驚かされた。過去に通信社の記者として秋田県庁の記者クラブに在籍し、3年近くその県政を取材していたが、知事や県の担当者が、そのことをことさら取り上げていた記憶はない。調べてみると、当時の県の資料には、2位であることがごくあっさりと書かれていた。

最下位は0%の東京、下から2位は1%の大阪、同3位は2%の神奈川となる。東京都の小池百合子知事にしろ、大阪府の吉村洋文知事にしろ、「都(府)の食料自給率が低いのは由々しき問題」とか「我々の食料自給率が低いぶん、北海道や秋田県には大いに増産に励んでもらいたい」などと話しているのは聞いたことがない。

都道府県にとっては、食料自給率など他人事であり、あってもなくてもいいような指標なのである。

「儲からない農業」をしないと自給率は上がらない

食料自給率を引き上げる方法は単純だ。カロリーの高いコメをはじめとする穀物を増産し、逆にカロリーが低く計算される野菜や果樹、畜産などを減産すればいい。これはそのまま、自県の農業を儲からなくする方法となる。

人口が減ればなお良い。島根、鳥取というほかの指標でパッとしない両県が、16位と17位という悪くない位置に付けている。コメが多く、人口が少ないからだ。

第2章で紹介したように、多くの県が需要の減るコメを減らし、代わりに野菜や花卉かきなどの園芸を推奨している。それはすなわち、カロリーベースの食料自給率を引き下げることにほかならない。

食料自給率を高めるという国家目標のために、自県の農業を儲からなくしては本末転倒である。とはいえ、都道府県はその値を引き上げるつもりがさらさらないのだが。