学校では「日本は食料自給率が低くて大変だ」と習う。ところが、それは実態を表してはいない。ジャーナリストの山口亮子さんは「農水省の元事務次官である渡辺好明さんは『農業にお金を注ぎ込まないと、日本は大変なことになりますよという、ある種の脅し』と説明している。意味のない数字が、政策目標にされてしまっている」という――。

※本稿は、山口亮子『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

自給率は高いほどいいというウソ

「日本は食料自給率が40%しかなくて大変だ」

1987年生まれの私は、小学校の社会科の授業でこう教えられた記憶がある。中学、高校でも同じことを言われ、社会に出てからは新聞やテレビからも繰り返し聞いてきた。

あれから四半世紀の間に微妙に変わったのは、その数字くらい。小学校の授業で初めて自給率を知った2000年前後を調べると、その割合は40%だった。2022年度は38%まで下がっている。

教科書や報道でよく出てくる自給率は、「カロリーベースの食料自給率」である。これは、エネルギー(カロリー)に着目して、国民1人に供給される熱量のうち、国内で生産された割合を示す。

学校の先生や、ニュースを読み上げるアナウンサーの言葉を鵜呑みにすれば、この間の日本はずっと“大変”であり、しかも状況は悪化していることになる。

そもそもこのカロリーベースの食料自給率を、日本の農業の現状を測るうえで重要な指標にしていいのだろうか。都道府県別にランキングしてみると、高ければいいという単純なものでないことが分かる(図表1)。

食料自給率の計算式に潜むカラクリ

1位が223%の北海道なのは順当だ。なにしろ、コメ、ムギといった穀物や、国によっては主食となるジャガイモのように、カロリーの高い作物を生産している。

それに続くのが、204%の秋田。確かに秋田はコメばかり作っている印象があるものの、米どころは数あるなかで、なぜ2位に来るのか。

ここに面白いカラクリがある。人口が少ないほど、自給率は上がるのだ。

カロリーベースの食料自給率は、次のように計算する。

1人・1日当たり国産(県産)供給熱量÷1人・1日当たり総供給熱量