高市氏に乗った大博打は完敗に終わった
自民党総裁選の影の主役は、キングメーカーとして君臨してきた麻生太郎氏だった。
投票日前夜、麻生派が擁立した河野太郎氏ではなく、石破茂氏、小泉進次郎氏と三つ巴の大激戦になっていた高市早苗氏に第一回投票から入れるよう派閥の子分たちに指令を出し、高市氏を首位に押し上げた。
ところが、直後に行われた「高市氏vs.石破氏」の決選投票では「高市包囲網」が瞬時に形成されて石破氏に大逆転を喫し、麻生氏は一転して負け組に陥落したのである。
勝者として壇上にあがる石破氏を拍手で迎えた党執行部のなかで、麻生氏は拍手を送らず、ものすごい形相で固まっていた。最終局面で高市氏に乗った大博打は完敗に終わった。キングメーカーから滑り落ちた瞬間だった。
今回の総裁選は、岸田政権の生みの親である麻生氏と、非主流派のドンである菅義偉氏の元首相同士のキングメーカー対決だった。新しく誕生した石破政権に、麻生氏の居場所はない。麻生氏が陣取ってきた副総裁の椅子に入れ替わって座ったのは、菅氏だった。敗者に容赦はしない。総裁選は仁義なき権力闘争なのだ。
新総裁を決める主導権を握っていたが…
麻生氏はいったいどこで道を踏み外したのか。
菅氏は小泉氏を支持し、石破氏とも良好な関係を維持していた。麻生氏は河野氏支持を表明しつつ、裏では上川陽子氏、小林鷹之氏らの推薦人に麻生派の子分たちを振り分け、決選投票で主導権を握る戦略で対抗した。ところが麻生陣営の候補はすべて振るわず、菅氏に近い小泉氏と石破氏、そして安倍晋三元首相の後継者として安倍支持層に絶大な人気のある高市氏の3人に総裁レースは絞られた。
石破氏と高市氏は党員票でトップを競っていたが、ともに国会議員への支持に広がりを欠いていた。小泉氏は国会議員票でリードし、決選投票にさえ進めば勝利が有力視されていたが、党員票が予想に反して大きく伸び悩み、3位脱落の見方が強まっていた。国会議員に不人気同士の「石破氏vs.高市氏」の決選投票にもつれ込めば、予測不能の大激戦になるのは間違いなかった。
混沌とした三つ巴の戦いを決するのは、麻生氏の動向と目された。決選投票で誰に乗るのか。さらには、決選投票に進む見込みのない河野氏ら麻生陣営の候補を見捨て、第一回投票から上位3人の誰かに乗って総裁レースの形勢を一気に方向づける可能性も指摘されていた。麻生氏が新総裁を決める主導権を握っていたのだ。