問題は、高市氏で本当に勝てるのかどうかだった。
麻生氏は慎重に票読みしたことだろう。麻生派が第一回投票から河野氏を見捨てて高市氏に乗れば、高市氏はいきなりトップに躍り出て、小泉氏は3位に脱落し、決選投票は「高市氏vs.石破氏」の激戦になる。どちらも国会議員には不人気で、究極の選択になる。高市氏の勢いをみて「勝ち馬に乗れ」という空気が広がるに違いない――。
麻生氏の読みは的中するかに見えた。麻生氏が投票前夜、麻生派内に「第一回投票から高市氏へ」と指令を出し、それがマスコミに報道されると、高市氏優勢の見方が一気に広がった。麻生派ばかりではなく、最後まで投票先を迷っていた議員たちも高市氏になだれ込んだのである。麻生氏の老獪な立ち回りは奏功しつつあったのだ。
第一回投票は、麻生氏の読み通りだった。高市氏の国会議員票は30票台と予測されていたが、倍増して72票に達した。トップの小泉氏には3票届かなかったものの、3位の石破氏を26票も上回ったのである。党本部の総裁選会場はどよめいた。
しかも高市氏は党員票でも石破氏を1票抜いてトップに立った。総合では①高市氏181票、②石破氏154票、③小泉氏136票となり、高市氏が予想を遥かに超える結果で堂々と首位通過したのである。高市政権誕生は目前に迫っていた。
石破政権が消去法で誕生した
ところが直後に行われた決戦投票は、麻生氏の期待とかけ離れた結果となった。国会議員票は石破氏になだれ込み、①石破氏189票、②高市氏173票で大逆転されたのだ。
麻生氏の完敗だった。石破氏が積極的に選ばれたのではない。自民党議員の多くが「高市政権阻止」に動いたのである。土壇場で「高市包囲網」が瞬時に出来上がった。その結果、石破政権が消去法で誕生したのだった。
自民党議員の多くが高市政権を嫌ったのはなぜか。
最大の理由は、目前に迫る解散総選挙である。高市氏は確かに党員人気は高かった。しかし、一般の世論調査では石破氏に大きく負け越し、党員人気との落差は明らかだった。世論の大勢は、高市氏のあまりに右寄りな政策を警戒し、安倍支持層の熱狂的な支持を冷めて見ていたのである。
いざ総選挙になると無党派層の動向が重要になる。とくに1議席を争う小選挙区では大きく右傾化することは禁じ手だ。右寄りの高市氏に警戒して中間層が立憲民主党へ流れてしまうことを、自民党議員の多くは恐れた。まして立憲民主党の新代表に中道で安定感を売りにする野田佳彦元首相が就任したばかりだった。総選挙が「高市氏vs.野田氏」の選択になれば、自民党は惨敗しかねない。