財務相には菅氏に近い加藤勝信氏、そして外相には麻生派を離脱して石破陣営の選対本部長を務めた岩屋毅氏を抜擢した(麻生氏に総裁候補に押し上げられ、麻生派から推薦人を借りて総裁選に出馬した上川陽子氏を外相から外しての起用だ!)。麻生氏は最高顧問としたが、これは名誉職にすぎず、実質的な棚上げである。

まさに「麻生外し」の布陣である。麻生氏を仮想敵とした「石破―菅―岸田の大連合」が成立したといってよい。

石破氏はこの布陣で10月解散総選挙に突き進むだろう。焦点は麻生氏を政界引退に追い込むかどうかだ。そうなれば麻生派は解散に追い込まれ、「派閥解消」がついに完成する。それは石破氏が総選挙で「自民党は変わった」とアピールする格好の材料となろう。

安倍氏・麻生氏が維持していた主導権は、総裁選で大きく転換した
これまで安倍氏、麻生氏が中心となって主導権を握ってきた。今回の総裁選でそれが一変した(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

石破氏の難題は、安倍支持層を後ろ盾とする高市氏の処遇だ。要職につければ政権内部からかき乱される。無役で干し上げれば安倍支持層が離反し、石破政権へのネガティブキャンペーンを仕掛けてくる。いずれにしても悩ましい。

総裁選という権力闘争の現実

石破氏が高市氏に提示したのは、総務会長ポストだった。党4役とはいえ、存在感は薄い役職だ。高市氏は幹事長を期待していた。石破氏はかつて総裁選の決選投票で安倍氏に逆転された後、幹事長に起用された。今回の決戦投票で逆転負けした自分も幹事長に起用されて当然であるとの思いがあったのだろう。

高市氏は総務会長人事をただちに固辞し、入閣する意思もない意向を伝え、反旗を翻したのである。この反応は、石破氏は織り込み済みだったろう。決選投票での大逆転の勝因が「麻生・高市包囲網」だった以上、麻生氏とともに高市氏も外さなければ、みんなが納得しない。それが総裁選という権力闘争の現実である。

高市氏が固辞した総務会長には、麻生派重鎮で麻生氏の義弟である鈴木俊一氏を充てた。総務会長ポストはそもそも挙党体制を演出するために用意しておいたということだ。

石破氏は総裁選で安倍派や麻生派の支援を受けた小林鷹之氏にも重要閣僚ではなく、党広報本部長を打診した。前回の総裁選で、勝者の岸田氏が敗者の河野氏に当てがった閑職である。小林氏はただちにこれを辞退した。高市氏と同様、石破氏には小林氏を重用する気はさらさらなかったのであろう。

「脱安倍」体制を目指す石破氏の思いが凝縮している

それ以上に注目すべきは、石破氏の推薦人となった村上誠一郎氏を総務相に抜擢したことだ。村上氏はかつて安倍氏を「国賊」と呼んで一年間の党役職停止処分を受けた筋金入りのアンチ安倍派である。「脱安倍」体制を目指す石破氏の思いがこの人事に凝縮されているといってよい。

誕生の経緯で政権の性格は決まる。石破政権を支配するのは「脱麻生」であり、高市外しによる「脱安倍」だ。自民党の権力構造は大きく変わる。次に主導権を握るのは、菅氏か、岸田氏か、それとも石破氏か。

ここから新たな権力闘争が始まる。

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