ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、途上国では食料危機が起きている。日本ではこうしたリスクはないのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「台湾有事などで海上交通路が破壊された場合、輸入に依存している日本の食料供給は壊滅的な被害を受ける。国内の米生産だけでは必要量の半分に過ぎず、国民の多くが餓死する事態になるだろう」という――。

※本稿は、山下一仁『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

新聞タイトル食料不足
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いま、ウクライナで起きている食料危機

食料安全保障には、2つの要素がある。①食料を買う資力があるかどうか、②食料を現実に入手できるかどうか、である。つまり、経済的なアクセスと物理的なアクセスである。

貧しい途上国では2つとも欠けている。世界的な不作などが原因で食料品価格が上がると、収入のほとんどを食費に支出している人は、買えなくなる。このとき、先進国が港まで食料を運んでも、内陸部までの輸送インフラが整備されていないと、食料は困っている人に届かない。

別の観点から見ると、食料危機には2つのケースがある。ロシアのウクライナ侵攻では、2種類の危機が同時に起きた。

1つは、価格が上がって買えなくなるケースである。途上国では所得のほとんどを食料品の購入に充てている。例えば、所得の半分を米やパンに充てているとき、この価格が3倍になると、食料を買えなくなる。

2008年にはフィリピンなどでこのような事態になったし、インドが2008年に米、2022年に小麦の輸出を制限したのも、自由貿易に任せると国内から穀物が輸出され、国内価格が高い国際価格まで上昇することを避けようとしたためだ。

2022年のロシアのウクライナ侵攻による小麦価格の高騰で、スーダンでは暴動が起きている。マスメディアで報道されているのは、この危機である。たしかに、途上国の貧しい人にとってこれは重大である。しかし、所得水準の高い日本では、このような事態は起きない。

日本でも物流途絶で食料が手に入らない事態があり得る

もう1つは、物流が途絶えて、入手できないケースである。

東日本大震災のとき、東北の被災者たちは、お金はあっても食べるものに事欠いた。ウクライナの首都キーウのスーパーの棚から、食料品が消えた。ロシアに包囲され孤立したウクライナの都市では、政府や赤十字による、食料、薬、生活物資の輸送がロシア軍に阻まれ、飢餓が発生している。お金があっても物流が途絶して食料が手に入らないという、物理的なアクセスに支障が生じる事態である。日本にとって重大なのは、この種の危機である。

日本は食料供給の多くを海外に依存している。日本周辺で軍事的な紛争が生じてシーレーン(海上交通路)が破壊され、海外から食料を積んだ船が日本に寄港しようとしても近づけないという事態になれば、国民への食料供給に重大な支障が生じる。具体的には、台湾有事だ。