終戦後の国民を助けた“すいとん”も満足に食べられない
別の観点から言うと、今の米生産で生きていくしかないとなると、米の消費量は現在の年間50.7kgと同じとなる。今の食事から米だけが残り、他には何もない献立、食生活を想像してもらえばよい。
終戦後は、小麦から作った“すいとん”という非常食があった。しかし、麦生産も減少しているので、国民に戦後ほどの麦は供給できない。米の代用食としての“すいとん”も満足に食べられない。かろうじて魚は供給できるかもしれないが、石油がないので漁船は操業できない。漁獲量は大幅に低下する。
カロリーから見ると、1946年の国民1人当たりの摂取カロリーは1903キロカロリーである。現在の米の消費量では、475キロカロリー(2020年)が供給されているにすぎない。
終戦時のカロリーのわずか4分の1である。
これで、どれだけの人が生存できるかわからない。数字的には、国民全てが餓死する。その前に、乏しい食料を奪い合うという凄惨な事態が発生し、これで半数近くの国民が命を落とすかもしれない。
日本の食料安全保障を脅かす者はだれなのか
終戦後の飢餓を経験した日本は、米を中心に食糧増産に努めた。米生産は、1945年前後の平均的な生産量の900万トンから1967年には1445万トンにまで拡大した。しかし、農家の所得向上という名目で米価を上げたことで、消費が減少して過剰になったため、1970年から農家に補助金を与えて供給を減少させて米価を維持する減反政策を続けている。水田の3割がなくなった。
農家の所得を維持する方法は、価格だけではない。アメリカは1960年代から、EUは1990年代から、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いで農家所得を維持する方法に切り替えている。これによって、小麦では、EUは世界第2位の、アメリカは第3位の輸出国になっている。農業保護に占める価格支持の割合は、アメリカ6%、EU16%と極めて低いのに、日本は76%となっている(2020年OECD)。
日本の農業政策は国民に高い食料・農産物を食べさせ、消費者に大きな負担をかけている。増産して輸出をすれば海外市場を開拓できるばかりか、危機の時には輸出したものを消費できる。
世界は、米、小麦などの穀物生産を大幅に増加させている。1960年から、米も小麦もほぼ3.5倍に増えている。JA農協は、米農業を維持するためには、農家が再生産できる高い米価が必要だとしている。しかし、米農業を維持するため、補助金を出して米生産を縮小させることは、矛盾していないか。米の生産を半分に減らして、なにが米農業の維持なのか?
これが、食料自給率向上や食料安全保障を叫ぶ、農林水産省とJA農協という組織が行っている米減らし政策がもたらす結果である。
戦前農林省が提案した減反を潰したのは、陸軍省だった。減反はだれが考えても間違った政策なのに、どうして止められないのだろうか?