※本稿は、山下一仁『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
食糧安全保障は誰のためのものなのか
食料は生命身体の維持に不可欠であり、国民生活の基礎的物資である。食料安全保障はエネルギーの安全保障と対比されることが多い。しかし、石油や電気がなくても江戸時代の生活に戻ることは可能であるが、食料がなくては江戸時代の生活にさえ戻ることはできない。
問題は、食料自給率の向上、食料安全保障の主張は、誰がどのような意図や目的の下に行っているのだろうかということである。
1918年の米騒動で米移送に反対して暴動を起こしたのは魚津の主婦であって農家ではなかった。終戦後の食料難の際、食料の買出しのため着物が一着ずつ剥がれるようになくなる「タケノコ生活」を送ったのは、都市生活者であって農家ではなかった。このとき、農家は農産物価格の上昇で大きな利益を得た。近くは1993年の平成の米騒動の際、スーパーや小売店に殺到したのは消費者であって農家ではなかった。
政府・与党が掲げてきた食糧自給率目標
1999年に制定された「食料・農業・農村基本法」は食料自給率向上目標を設定することを規定した。これに基づき閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、2000年当時の40%の食料自給率を45%に、引き上げることを目標にしている。
JA農協などの農業団体は、政府・与党に食料自給率向上を強く要請した。不思議なことに、食料危機が起きると生命維持が脅かされる消費者の団体よりも、終戦時のように食料危機で農産物価格上昇の利益を受ける農業団体の方が、食料自給率の向上、食料安全保障の主張に熱心なのである。
食料自給率が低く海外に食料を依存していると言うと、不安になった国民は国内農業を振興しないとだめだと思ってくれる。農業団体は、食料安全保障を主張することで農業保護の増加をもくろんできたのだ。