食料自給率を犠牲にしても守りたいのは「価格」

しかし、農林水産省やJA農協は、食料自給率の向上に反する方針で、国際交渉に臨んできた。ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉では、米の関税化を避けるために、ミニマム・アクセスという低関税の輸入枠を、関税化した場合よりも多く設定した。

さらに、WTOドーハ・ラウンド交渉では、778%(341円/kgの従量税を従価税に換算したもの)の米の関税に代表されるような高い農産物関税についての大幅な(70%)削減要求を避けるために、代償として、低関税の輸入枠をさらに拡大してもかまわないという対処方針をとった。

TPP交渉では、米、小麦や乳製品の高関税を維持するために、米、小麦では、アメリカやオーストラリアなどに国別の輸入枠を設定したほか、乳製品については、TPP加盟国向けの特別枠を設定した。

低関税の輸入枠を拡大すれば、食料自給率は低下する。農産物貿易交渉での対処方針は、食料自給率向上の閣議決定に反しているのだ。農林水産省やJA農協が食料自給率を犠牲にしてまでも守りたいのは、高い関税に守られた国内の高い農産物価格、とりわけ米価である。

日本の農業保護の特徴は、保護の水準がEUの2倍、アメリカの4倍にも上るとともに、その保護の8割を消費者が国際価格より高い価格を払うことで負担していることだ。

減反補助金9兆円を交付しても国内生産量は減少

農業は高い価格や財政支出で保護されながら、それに見合う供給責任を果たしてこなかった。人口が増加しているので、農業生産は拡大していなければならない。しかし、図表1が示す通り、輸入穀物をエサとする畜産は拡大しているが、他は、野菜・果物が少し健闘しているものの、全て大幅に減少している。

米の減反には、過剰となった米から麦や大豆などに転作して食料自給率を向上させるという名目があった。転作(減反)にはこれまで9兆円もの補助金が交付されているのに、結果はこれら農業の生産減少だった。

麦や大豆の生産技術を持たない米の兼業農家は、減反の補助金をもらうために麦や大豆のタネは蒔いても収穫しないという対応(“捨てづくり”と言う)も行った。食料自給率は下がり続けた。