日本政府が最も成功したプロパガンダ
食料自給率という概念は、農林水産省というより政府が作ったプロパガンダの中で、最も成功をおさめたものである。60%以上も食料を海外に依存していると聞くと国民は不安になり、農業予算を増やすべきだと思ってくれるからである。
しかし、食料自給率とは、現在国内で生産されている食料を、輸入品も含め消費している食料で割ったものである。したがって、大量の食べ残しを出し、飽食の限りを尽くしている現在の食生活(食料消費)を前提とすると、分母が大きいので食料自給率は下がる。同じ生産量でも30年前の消費量だと食料自給率は上がる。分母の消費量の違いによって食料自給率は上がったり下がったりするのだ。そもそも指標として不適切である。
逆に、終戦直後の食料自給率は、輸入がなく国内生産量と国内消費量は同じなので100%である。餓死者が出た終戦直後の方がよかったとは、誰も言わないだろう。シーレーンが破壊されて輸入が途絶する食料危機の際も、政府が努力しなくても100%に“なる”。
ともに飢餓に苦しんだ日本とEUの大きな違い
現在の食料自給率37%の過半は米である。1960年に食料自給率が79%だった時もその6割は米だった。つまり、食料自給率の低下は、米の生産を減少させてきたことが原因なのである。
食料自給率とは、国内生産を国内消費で割ったものだから、国内消費よりも多く生産して輸出していれば、食料自給率は100%を超える。アメリカ、カナダ、フランスなどの食料自給率が100%を超えるのは、輸出しているからだ。
第二次世界大戦後、日本と同じように飢餓に苦しんだEUは、日本と同様、農業振興のために農産物価格を上げた。このため、農産物の過剰に直面した。ここまでは、日本と同じである。しかし、日本が減反で農家に補助金を与えて生産を減少したのに対し、EUは生産を減少するのではなく、過剰分を補助金で国際市場に輸出した。
日本が国内の市場しか考えなかったのに対し、EUは世界の市場を見ていた。これが食料自給率の違いとなって表れている。