架空の実験装置をでっち上げて予算を積み上げる

しかし、それでは予算が取れないから、架空の実験装置をでっち上げて、図面を描き、ボルト一本、ローラー一本から予算を積み上げていくのだ。

そうした図面や積算資料は積み上げると、1メートルになるほど膨大だった。主計局の大蔵二係は、それを査定していくのだが、科学者ではないから、どこに問題があるかなんてわからない。だから、ろくに見ていなかったと思う。

写真=iStock.com/Artem Cherednik
積み上げると、1メートルになるほど膨大だった(※写真はイメージです)

ところが、たまに思いつくと、「この実験装置がどのような役割を果たすのか」といった質問を、図面を広げながら訊いてくる。

そこで「これは架空の実験装置なんです」などとは口が裂けても言えない。ただ、それっぽく研究の内容を説明するのが私の役割だった。

大蔵原案という名の「壮大な茶番劇」

もちろん、それで大蔵省の主査が研究開発の中身を理解するわけではなかった。言ってみれば、形式的に内容を確認するだけだ。

だから予算編成の終盤になると、大蔵省が決まって口にするのが、「自己査定」という言葉だった。

たとえば、「試験研究費の予算要求総額が3%カットになるように要求を組み替えてこい」と言うのだ。

そして、その自己査定がほぼそのまま内々示となる。

報道では、年末が近づくころ「大蔵原案」が内示され、そこから復活折衝が始まって、最終的な予算が確定するという話がよくなされるが、現実は少し違っている。

大蔵省は、大蔵原案内示の2週間ほど前に、内々示という最終的な予算を通告してくる。通告を受けた各省庁は、そこから復活折衝によって復活させる金額を除外して大蔵省の内示の案を作るのだ。

数字を作るだけではない。ここで、「族議員の○○先生が、主計局に乗り込み△△億円の復活を勝ち取る」とか、「□□大臣が直接大蔵大臣を説得して、◎◎億円の予算を復活させる」といったシナリオをすべて描くのだ。

最終的な予算額は、内々示の時点で決まっているので、壮大な茶番劇が演じられるのだ。