なぜ財務省は「増税」にこだわるのか。経済アナリストの森永卓郎さんは「財政均衡主義に疑問を持つ若手官僚も多いのだが、中高年の上司の前では、財政均衡は大切だと言い続けなければ出世できない。そうして、何度も財政均衡を口にするなかで、だんだんマインドコントロールされてしまう」という――。
※本稿は、森永卓郎『ザイム真理教』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。
1964年までまったく国債を発行していなかった
私が大蔵省の「奴隷」をしているなかで、大蔵省の役人から「財政再建元年」という言葉をしばしば聞くようになった。
じつは日本は戦後1964年までまったく国債を発行していなかった。
ところが、図表1のとおり1965年から少しずつ国債発行がなされるようになり、1973年の石油ショックに伴う不況に対応するための経済対策で、大きな額の国債発行が避けられなくなった。
元本を返済しないといけないと思い込んでいた
国債はいろいろな償還期限があるのだが、大部分の国債は10年償還だ。
つまり、石油ショックの10年後、1980年代初めくらいから、国債の大量償還が始まる。
そのために償還の財源を確保しなければならない。だから、歳出カットと増税を考えていかなければならないというのが、財政再建元年という言葉の意味だったのだ。
大蔵省は、すでにこの時点から大きな過ちを犯していた。10年経って国債が償還期限を迎えたら、その元本を返済しないといけないと思い込んでいたのだ。