「お前、俺の茶が飲めないと言うのか!」

ただ、茶番劇と言っても、台本を作るのはなかなかたいへんだ。だから内々示を受けたら、主計課員総がかりで、突貫工事の作業をしなければならない。

大蔵二係の主査から、内々示を取りに来いという指示が私にあった。主計課全員が臨戦態勢に移る。私は、主査から渡された書類の束をしっかり握りしめて、「どうもありがとうございました」と深々と頭を下げ、専売公社本社に向けて駆け出そうとした。

そのとき主査が突然私にこう告げた。

「森永、ちょっと地下の喫茶室で茶を飲まないか?」
「たいへん申し訳ございません。皆が作業を控えて、待っておりますので」

主査が烈火のごとく怒った。

「お前、俺の茶が飲めないと言うのか!」

写真=iStock.com/kuppa_rock
「お前、俺の茶が飲めないと言うのか!」(※写真はイメージです)

「ノンキャリアで50代の主査」は絶対権力者

ノンキャリアで50代の主査は、私にとっては絶対権力者だった。その誘いを断れるはずがない。大蔵省の地下にあった喫茶室に連れていかれた私に向かって、主査は「わが生い立ちの記」を延々と語り始めた。

私は、上の空で、話が全然耳に入らなかった。主計課の課員が、私の帰りを今か今かと待ち受けているのがわかっていたからだ。

主査の話は、2時間以上にわたって続いた。ようやく解放された私は、会社まで本気で走った。

息を切らして戻った私に、「森永、いままで何をしていたんだ」と主計課長の罵声が浴びせかけられた。私は「申し訳ありません」とひたすら謝るしかなかった。