静岡県内のリニア工事を巡って、県が地下水の流出を理由に頑なに認めてこなかったJR東海による山梨県境のボーリング調査をあっさりと認めた。ジャーナリストの小林一哉さんは「川勝知事の『印象操作』を真に受けたマスコミが県の主張をそのまま垂れ流してきた責任は大きい」という――。

川勝前知事時代の「懸念」がまた一つ解決

静岡県は9月17日、JR東海がリニア工事のために山梨県境を越えて静岡県内で実施する調査ボーリング(高速長尺先進ボーリング)について、一転して認めると発表した。

山梨県内の調査ボーリング(高速長尺先進ボーリング)状況
写真提供=JR東海
山梨県内の調査ボーリング(高速長尺先進ボーリング)状況

川勝平太前知事は「水一滴も県外流出を許可できない」「全量戻しがJR東海との約束だ」「それができなければ掘ることは許可できない」と静岡県内の調査ボーリングを許可しない姿勢を崩さなかった。

川勝知事の言い掛かりの1つだった「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」では、サイフォンの原理や高圧水など非科学的な理由を根拠に、静岡県の水が山梨県内に引っ張られると主張していた。

上り勾配である山梨県側から静岡県境を越えて調査ボーリングを実施すれば、引っ張られるどころか、ダイレクトに湧水は山梨県側へ流出していく。

今回の静岡県の発表で、「水一滴も県外流出を許可できない」どころか、「湧水の県外流出を許可する」ことになってしまったのだ。

いままでいったい何を議論していたのか疑問を抱く人たちが多いだろう。

「県民をだまして頬かむり」は許されない

川勝知事は後述する「印象操作」を繰り返すことによって、あたかも大井川下流域の湧水が枯渇するような間違った印象を県民に与えてきた。

「山梨県の調査ボーリングをやめろ」に対して、鈴木康友知事はことし6月19日、山梨県の長崎幸太郎知事の強い要請に応じて、「『静岡県の水』という所有権を主張せず、『静岡県の水』の返還を求めないこと」に合意した。

そもそも山梨県の調査ボーリングで、いくら湧水が抜けたとしても大井川水系には全く関係ない。

それどころか、地下水は動的な水であり、地下水脈がどのように流れているのかわからない。県境付近の地下水に静岡県も山梨県もないことくらい一般常識である。

鈴木、長崎の両知事の不思議な「合意」は、川勝知事の無理無体な主張をごまかすことで、「一件落着」としたのだ。

今回の「静岡県内の調査ボーリング容認」について、静岡県は川勝知事時代の「印象操作」を認めた上で、ちゃんとわかりやすく説明しなければならない。

そうでなければ、これまで県民をだましてきたことをごまかして頬かむりすることになってしまう。