「リニア妨害」の川勝知事が退任してから、静岡工区のリニア問題はどれほど進んでいるのか。ジャーナリストの小林一哉さんは「懸念の一つだった残土置き場問題がまたしてもあっさり解決した。知事が変わるだけでこれまでの議論が覆される会議の存在意義を疑う」という――。
JR東海が試験しているリニアモーターカー。一般の人を乗せて走る時の最高速度は時速500キロの予定です=2020年10月、山梨県都留市の山梨リニア実験センター
写真提供=共同通信社
JR東海が試験しているリニアモーターカー。一般の人を乗せて走る時の最高速度は時速500キロの予定です=2020年10月、山梨県都留市の山梨リニア実験センター

リニアの「未解決事案」がまたひとつ解決

川勝平太・前静岡県知事の「リニア妨害」の象徴のひとつだった「トンネル工事の残土置き場問題」について、静岡県は9月6日に開いた地質構造・水資源専門部会で、これまでの姿勢を一変させて、従来の計画をそのまま容認した。

JR東海は、リニア南アルプストンネル静岡工区工事で発生する土砂を約370万立方メートルと見込んでいる。

そのうちの97%、約360万立法メートルの発生土を処理する大規模な「ツバクロ残土置き場」はトンネル工事現場近く、大井川左岸に面した燕沢つばくろさわ上流付近に建設される。

深層崩壊が懸念されるとしたツバクロ残土置き場計画地
筆者撮影
深層崩壊が懸念されるとしたツバクロ残土置き場計画地

残土置き場が決まらなければリニアトンネル工事に入ることはできないため、JR東海は、2018年夏から始まった地質構造・水資源専門部会で、燕沢付近の崩壊対策などを詳しく説明してきた。

構造物の排水、安全性・耐震性、背後地山・周辺地形の確認、深層崩壊の確認、施行管理、維持管理、異常時対応などに問題がないことを具体的に示した。

さらに過去の論文等を基に燕沢付近での深層崩壊の可能性が非常に低いことも説明している。

専門部会は結局「政治」に左右される

ところが、川勝知事は2022年夏になって突然、「深層崩壊について検討されていない。熱海土石流災害を踏まえても極めて不適切だ」などと横槍を入れて、ツバクロ残土置き場を認めない方針を示し、この問題はこじれた。

これを受けて、2023年8月3日に開催された地質構造・水資源専門部会で、塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が「下流域に影響を及ぼすリスク(危害・損害などに遭う高い可能性)」を問題提起した。

さらに、「広域的な複合リスク」として、多発的な土石流が発生するリスクや斜面崩壊の発生リスクもあるとした。

専門部会はツバクロ残土置き場の位置選定に問題があるという意見で一致した。

ところが、川勝知事がことし5月に辞職したことで大きく潮目が変わった。

昨年8月以来、これまで残土置き場に関する議論は行われていなかったが、ほぼ1年後に開かれた9月6日の専門部会で、静岡県はJR東海のツバクロ残土置き場計画をそのままあっさりと認めたのだ。

川勝知事の退場によって、県の姿勢が180度変わったことになる。

いくら専門部会が科学的・工学的な議論を行っているといっても、実際は、いかに「政治」に左右されているかがわかる。